「COP30と日本の立ち位置」:化石燃料廃止ロードマップから見る世界と日本のリアル

   by kabbara        
「COP30と日本の立ち位置」:化石燃料廃止ロードマップから見る世界と日本のリアル

COP30は、2025年11月にブラジルのベレン(アマゾン)で開催されました。これは、2015年のパリ協定採択からちょうど10年という重要な節目であり、これまでの議論から「実行(Implementation)」へとフェーズを移行させる会議として位置づけられました。本日の記事では、主に『化石燃料廃止』についてのテーマに焦点を当て解説していきます。

サマリー

・COP30の歴史的意義と結論: パリ協定採択10年の節目に、「化石燃料からの公正かつ秩序ある移行」を含む具体的な行動計画(実行フェーズ)へと国際社会が移行したこと。

・日本の野心的な新目標 (NDC): 2035年度60%、2040年度73%削減(2013年度比)という、国際的にも野心的な新しい中間目標の設定。

・脱炭素の生命線「気候資金」: 途上国支援の新たな目標として年間1.3兆ドル規模の資金調達を目指すロードマップと、民間資金動員への具体的な議論。

・日本の現実的戦略「トランジション」: エネルギー安全保障を確保しつつ、段階的な脱炭素を目指す日本の戦略(水素・アンモニア混焼、CCUS活用)の具体的な内容。

最大の焦点は「化石燃料からの移行(Transitioning away from fossil fuels)」をいかに具体化するかでした。最終文書では「化石燃料からの公正かつ秩序ある移行を加速する」という文言は盛り込まれましたが、一部の国が求める「段階的廃止(Phase-out)」は、エネルギー安全保障や経済成長の必要性から見送られました。

しかし、以下の具体的な行動目標が国際的に強化・確認されました。

  • 再生可能エネルギー3倍、省エネルギー2倍: 2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍にし、エネルギー効率改善のペースを2倍にする目標の道筋を具体化。

  • 非効率な石炭火力発電の段階的廃止の加速

  • メタン排出削減の強化

COP30は、「いますぐ全てを止めるのは現実的ではないが、再生可能エネルギーへの移行を加速する」という、妥協と前進の産物と言えます。

【世界と日本のNDC競争】1.5℃目標達成のための「2035年・2040年」削減目標

パリ協定の1.5℃目標達成には、各国が提出する「国が決定する貢献(NDC)」の継続的な引き上げが不可欠です。

 

日本の新しいNDCの衝撃

日本はCOP30に先立ち、2050年カーボンニュートラル達成に向けた道筋として、2035年度に温室効果ガスを2013年度比で60%削減、さらに2040年度には73%削減を目指すという、新しい中間目標を国連に提出しました(2025年2月閣議決定)。

従来の「2030年度46%削減」から、わずか5年間で14ポイントも上積みするという、極めて急進的な排出削減カーブを描いています。これは、国際社会の期待に応え、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を通じた産業構造の変革に踏み切るという、日本の強い意志を示すものです。

 

世界のNDCの最新動向と「ギャップ」

COP30では、世界全体の削減目標の積み上げでは、依然として1.5℃目標達成への「ギャップ」が残されていることが再確認されました。このギャップを埋めるため、2023年のCOP28で実施されたグローバル・ストックテイク(GST)の結果を踏まえ、各国は次回NDC提出期限までに「強化されたNDC」を提出することが強く求められています。

ここに見出しテキスト年間1.3兆ドルの「気候資金」ロードマップと日本の役割を追加

脱炭素移行に必要な巨額の投資(特に途上国支援)を賄うための国際的な枠組みが「気候資金(Climate Finance)」です。

 

途上国への資金支援目標の具体化

前回のCOP29で合意された、先進国から途上国への気候資金の新たな目標は、年間1.3兆ドルという莫大な規模に設定されました。この巨額を賄うため、COP30では以下の具体化が議論されました。

  1. 民間資金の動員: 政府資金を「呼び水」とし、リスク低減策を通じて世界の年金基金や金融機関などの民間資金を、途上国のプロジェクトに呼び込む革新的な金融メカニズムの創設。
  2. 「適応資金」の強化: 災害対策など、気候変動の影響に備えるための適応策への資金を、2035年までに少なくとも3倍に強化する努力目標の設定。

日本が担う「トランジション・ファイナンス」の役割

日本は、技術力と金融ノウハウを活かし、すぐにゼロエミッションにできないアジア諸国などが、段階的に脱炭素を進めるための「トランジション・ファイナンス」をリードしています。日本主導のアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を通じ、LNGから水素・アンモニアへの移行など、地域の実情に合わせた現実的な脱炭素ロードマップと資金・技術提供を推進しており、国際的な期待が高まっています。

化石燃料依存の日本が取る「現実的」なエネルギー移行戦略

日本の脱炭素戦略は、エネルギー自給率の低さや産業構造を背景に、「再エネ一辺倒」ではない「トランジション(移行)」戦略を核としています。

 

日本のトランジション戦略の核心

日本は、「カーボンニュートラルという目標に向けて、既存の化石燃料インフラを最大限活用しつつ、段階的に非炭素化を進める」アプローチを取っています。これが、GX推進戦略の核心です。

 

移行手段

メリット

課題

LNG(液化天然ガス)

石炭よりCO2排出量が少なく、再エネの調整力として当面必須。

長期的な脱炭素に組み込むことへの「ガス・ロックイン」の懸念。

水素・アンモニア

燃焼時CO2ゼロの次世代燃料。既存火力発電所での混焼が可能。

製造コストが高い。サプライチェーン構築に巨額の投資が必要。

原子力発電

安定した電力供給が可能な非化石電源。2040年目標達成に不可欠。

安全性への国民の懸念と規制強化、廃炉コストの問題。

CCUS

排出削減が難しい産業(鉄鋼、セメント)のCO2を回収・貯留。

莫大なコストと貯留場所の確保が課題。排出そのものを減らすわけではないという批判。


国際的な賛否の声はありますが、日本は「アジアの特殊なエネルギー事情を考慮した現実的なモデルケース」として、その有用性を国際的に説明し、「トランジション・リード」を目指しています。

まとめ:日本の脱炭素は世界を救う「トランジション・リード」へ

COP30は、世界の気候変動対策が「実行」フェーズに入ったことを示しました。日本は、「2040年度73%削減」という野心と、水素・アンモニア、CCUSといった技術革新を核とする「GX推進戦略」により、脱炭素と経済成長を両立させるというモデルを世界に提示しています。

エネルギー転換が困難なアジア諸国にとって、日本の「トランジション」戦略は、現実的な希望の道筋となり得ます。企業はカーボンプライシングなどの新しいルールに適応し、市民は省エネや再エネ選択を通じて、この大きな変革を成長の機会と捉えることが、今、最も求められています。




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参考文献・情報源

  • 環境省、経済産業省:各発表資料(GX推進戦略、NDC関連)
  • UNFCCC (国連気候変動枠組条約) COP30 最終合意文書
  • IPCC (気候変動に関する政府間パネル) 第6次評価報告書
  • IEA (国際エネルギー機関) 関連レポート

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