
はじめに
地球温暖化が深刻化する中、航空業界におけるCO2排出量削減は喫緊の課題となっています。従来のジェット燃料に代わる、環境負荷の低い燃料の開発が求められており、その中で注目されているのが「持続可能な航空燃料(SAF)」です。
SAFは、従来のジェット燃料と比べてCO2排出量を大幅に削減できる可能性を秘めており、航空業界の脱炭素化に向けた重要な役割を担うと期待されています。
本記事では、廃食油を原料としたSAFの製造に取り組む「Fry to Fly Project」を事例に、SAFの製造方法、メリット、そしてFry to Fly Projectの導入企業や課題、将来展望について詳しく解説していきます。
サマリー
- 持続可能な航空燃料(SAF)は、従来のジェット燃料に比べてCO2排出量を大幅に削減できる航空燃料
- Fry to Fly Projectは、廃食油を原料としたSAFの製造プロジェクト
- SAFの導入は、CO2排出量削減、エネルギー安全保障強化、経済効果など、多くのメリットをもたらす
- SAFの普及には、コスト、生産量、原料確保などの課題があるが、技術開発や政策支援によって克服が期待される
- JALやANAなどの航空会社だけでなく、松屋などの飲食店、日揮ホールディングスなどの企業がFry to Fly Projectに参画している
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持続可能な航空燃料(SAF: Sustainable Aviation Fuel)とは、従来のジェット燃料に比べて、ライフサイクル全体でCO2排出量を大幅に削減できる航空燃料のことです。SAFは、再生可能な資源から製造されるため、化石燃料の使用量を削減し、地球温暖化の抑制に貢献することができます。

SAFには、大きく分けて以下の種類があります。
- バイオマス由来SAF: 動植物油脂、廃食油、木質系バイオマスなどを原料とするSAF。Fry to Fly Projectで製造されるSAFもこの一種です。
- 合成SAF: CO2と水素を反応させて製造するSAF。Power to Liquid (PtL) と呼ばれる技術が用いられます。
SAFは、従来のジェット燃料と化学的な性質がほぼ同じであるため、既存の航空機やインフラをそのまま利用できるというメリットがあります。また、燃焼時の排出ガスも従来のジェット燃料と変わらないため、大気汚染のリスクも低減できます。
2. Fry to Fly Project:廃食油からSAFを製造する革新的な取り組み
Fry to Fly Projectは、日揮ホールディングス株式会社が中心となって推進する、廃食油を原料としたSAFの製造プロジェクトです。それまで、日本国内で廃棄されていた使用済みの食用油は、年間約12万トンも海外に輸出されていました。これは、航空機の燃費にもよりますが、東京 – ロンドン間を約1500回も飛行できる量の燃料に相当します。海外のSAFメーカーが日本の廃食用油を原料にSAFを製造し、日本の航空会社がそれを輸入するという、資源の無駄遣いと環境負荷の大きい状況でした。Fry to Fly Projectは、こうした状況を改善し、廃食用油を国内で有効活用し、資源循環型社会の構築に貢献することを目指しています。

このプロジェクトでは、飲食店などで使用された廃食油を回収し、高度な精製技術によってSAFに変換します。具体的には、以下のプロセスを経てSAFが製造されます。
- 廃食油の回収: 飲食店などから排出される廃食油を回収
- 前処理: 廃食油に含まれる不純物を取り除く
- 水素化精製: 触媒を用いて、廃食油を水素と反応させ、ジェット燃料に適した成分に変換
- 異性化: ジェット燃料の性能を向上させるために、炭化水素の構造を変化させる
- 蒸留: 目的の成分を分離・精製し、SAFを製造
Fry to Fly Projectで出来ること
Fry to Fly Projectでは皆様から廃食用油の引き取りを行うだけでなく、以下に示すような取り組みを進めております。何ができるかは皆様のアイデア次第ですので、ぜひ一緒に楽しみながら資源循環・脱炭素に取り組んでいきましょう!

- 大型施設などでの廃食用油から出来るSAFをテーマとする資源循環、脱炭素普及促進キャンペーン
- 廃食用油から出来るSAFをテーマとした学校などでのSDGs教育
- 本プロジェクトを通じた参加企業・団体同士の交流
- 本プロジェクトを通じたSDGs貢献への対外発信
- 廃食用油の市民回収を通じた消費者による脱炭素への直接的貢献
- 飲食店でのトリプルフライデー(Fry, Fly, Fri)キャンペーン
3. SAF導入のメリットと普及に向けた課題

SAFの導入は、航空業界だけでなく、社会全体に多くのメリットをもたらします。主なメリットは以下の通りです。
- CO2排出量の大幅削減: SAFは、ライフサイクル全体でCO2排出量を最大80%削減できる可能性があります。航空業界のCO2排出量削減目標達成に大きく貢献します。
- エネルギー安全保障の強化: SAFの原料は多岐にわたるため、特定の資源への依存度を低減し、エネルギー安全保障を強化することができます。
- 経済効果: SAFの製造・利用は、新たな産業や雇用を創出し、経済活性化に貢献します。
- 企業イメージの向上: SAFの導入は、企業の環境への取り組みをアピールし、企業イメージの向上に繋がります。
一方で、SAFの普及には、いくつかの課題を克服する必要があります。
- コスト: SAFの製造コストは、従来のジェット燃料よりも高価です。コスト削減のための技術開発や量産化が求められます。
- 生産量: 現在のSAFの生産量は、航空業界の需要を満たすには十分ではありません。生産量の拡大に向けた投資が必要です。
- 原料確保: SAFの原料となるバイオマスなどの確保が課題となります。持続可能な原料調達システムの構築が重要です。
- 政策支援: SAFの普及を促進するためには、政府による政策支援が不可欠です。税制優遇や補助金制度などの導入が期待されます。
これらの課題解決に向けて、世界各国で様々な取り組みが進められています。技術開発、投資促進、国際協力などを通じて、SAFの普及を加速させることが重要です。
4. Fry to Fly Projectの参加企業紹介
Fry to Fly Projectには、SAFの製造・利用を促進するために、様々な企業が参加しています。
- 航空会社:
- 日本航空(JAL): 2022年10月、羽田発福岡行き定期便でFry to Fly ProjectのSAFを使用した実証実験を実施。
- 全日本空輸(ANA): 2023年より、Fry to Fly ProjectのSAFを導入し、国際線定期便で使用する計画。
- Peach Aviation: 2025年からFry to Fly ProjectのSAFを国内線に導入予定。
- 廃食油供給:
- 松屋フーズホールディングス: 牛丼チェーン「松屋」などを運営。店舗から排出される廃食油をFry to Fly Projectに提供。
- ワタミ: 居酒屋などを運営。同様に、店舗から排出される廃食油を提供。
- モスフードサービス: ハンバーガーチェーン「モスバーガー」などを運営。Fry to Fly Projectに廃食油を提供するだけでなく、店舗でSAFの利用促進をPR。
- 吉野家ホールディングス:牛丼チェーン「吉野家」などを運営。店舗から排出される廃食油をFry to Fly Projectに提供。
- すかいらーくホールディングス:ファミリーレストラン「ガファミ」などを運営。店舗から排出される廃食油をFry to Fly Projectに提供。
- ロイヤルホールディングス:ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」などを運営。店舗から排出される廃食油をFry to Fly Projectに提供。
- ゼンショーホールディングス:牛丼チェーン「すき家」などを運営。店舗から排出される廃食油をFry to Fly Projectに提供。
- サイゼリヤ:イタリアンレストラン「サイゼリヤ」などを運営。店舗から排出される廃食油をFry to Fly Projectに提供。
- その他:
- 日揮ホールディングス: プロジェクト全体の企画・運営、SAF製造技術の開発
- 三菱商事: SAFの販売、原料調達
- JXTGエネルギー: SAFの精製、品質管理
- 住友商事: Fry to Fly Projectに参画し、SAFの安定供給体制の構築に貢献。




これらの企業は、それぞれの役割を担い、Fry to Fly Projectの成功に貢献しています。
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まとめ
持続可能な航空燃料(SAF)は、航空業界の脱炭素化に向けた切り札として期待されています。Fry to Fly Projectのような革新的な取り組みを通じて、SAFの生産量が増加し、コストが削減されれば、SAFの普及はさらに加速していくでしょう。
SAFの普及は、地球温暖化の抑制だけでなく、エネルギー安全保障の強化、経済活性化など、様々なメリットをもたらします。私たちは、SAFの重要性を認識し、その普及を支援していく必要があります。
参考文献
- 日揮ホールディングス株式会社 Fry to Fly Project
- 国土交通省 航空分野におけるCO2排出量削減対策
- 一般社団法人 日本航空宇宙工業会 持続可能な航空燃料(SAF)