なぜ日本は「カーボンニュートラル」で世界に後れを取っていると言われるのか?

   by kabbara        
なぜ日本は「カーボンニュートラル」で世界に後れを取っていると言われるのか?
なぜ日本は「カーボンニュートラル」で世界に後れを取っていると言われるのか?

はじめに

日本をはじめ、世界各国で温暖化対策が進められている昨今、EUは2050年までに気候中立(カーボンニュートラル)を達成することを目指す「欧州グリーンディール」を打ち出し、再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギー化などの政策を推進しています。特に、排出量取引制度(ETS)を強化し、炭素価格を高めることで企業の脱炭素化を促しています。また、アメリカもバイデン政権下でパリ協定に復帰し、2050年までのカーボンニュートラル達成を目標に、巨額の投資を含む気候変動対策を推進しています。中国も2060年までのカーボンニュートラル達成を表明し、再生可能エネルギーへの大規模投資を行っています。

一方、日本は2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目標として掲げていますが、具体的な政策や取り組みは遅れていると言わざるを得ません。国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、日本の2022年のCO2排出量は10億トンを超え、世界第5位となっています。また、日本のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合は、主要国の中でも低い水準にとどまっています。

日本のカーボンニュートラルに向けた取り組みの遅れは、経済構造、エネルギー政策、技術革新、政策・制度、そして国民の意識など、様々な要因が複雑に絡み合っていることが指摘されています。

サマリー

  • 世界のカーボンニュートラルの潮流と日本の現状:世界は脱炭素へ急速にシフトしている中、日本は取り組みが遅れている。
  • 経済構造における課題:重厚長大型産業への依存、サプライチェーンの複雑化が脱炭素化を阻害。
  • エネルギー政策における課題:再生可能エネルギー導入の遅れ、火力発電への依存、原子力政策の不透明さが課題。
  • 技術革新における課題:革新的な技術はあるものの、実用化・社会実装のスピードが遅い。
  • 政策・制度における課題:長期的なビジョンと実行力のある政策、炭素価格付けの導入が不足。
  • 日本の独自の取り組み:世界に誇る技術力や地域特性を活かした取り組みも進んでいる。
経済構造における課題

日本の経済構造は、製造業を中心とした重厚長大型であり、エネルギー消費量が多いという特徴があります。特に、鉄鋼、化学、セメントなどの素材産業は、CO2排出量が多い産業として知られています。これらの産業は、日本の経済を支える重要な産業である一方、カーボンニュートラルの実現に向けては、大きな課題を抱えています。

素材産業では、製造プロセスにおいて大量のエネルギーを消費するため、CO2排出量を削減することが難しいという課題があります。例えば、鉄鋼業では、鉄鉱石から鉄を製造する際に、コークス(石炭を乾留して得られる固体燃料)を還元剤として使用するため、大量のCO2が排出されます。これらの産業は、海外との競争が激しいため、CO2排出削減のための設備投資や技術開発に費用をかけることが難しいという事情もあります。

さらに、日本の産業構造は、サプライチェーンが複雑化しており、CO2排出量の削減に向けた取り組みを効率的に進めることが難しいという課題もあります。サプライチェーン全体でCO2排出量を削減するためには、企業間の連携や情報共有が不可欠ですが、現状では、企業間の連携が十分に進んでいるとは言えない状況なのです。

エネルギー政策における課題

日本のエネルギー政策は、長らく原子力発電に依存してきました。しかし、2011年の東日本大震災以降、原子力発電所の稼働停止が相次ぎ、エネルギーミックスにおける原子力発電の割合は大幅に低下しました。その結果、火力発電への依存度が高まり、CO2排出量が増加する傾向にあります。

エネルギーミックスとは・・・

エネルギーミックスとは、「社会全体に供給する電気を、さまざまな発電方法を組み合わせてまかなうこと」をいいます。日本語で「電源構成」と呼ぶこともあります。適切なエネルギーをミックスすることによって、電気の安定的な供給が実現します。

日本は現在、火力発電(石油、石炭、天然ガス)に大きく依存していますが、再生可能エネルギーの導入も進めています。

火力発電は、CO2排出量が多いエネルギー源であるため、カーボンニュートラルの実現に向けては、火力発電への依存度を低減していく必要があります。しかし、再生可能エネルギーの導入拡大には、コストや立地などの課題があり、火力発電への依存からの脱却は容易ではありません。太陽光発電は、天候に左右されるという不安定さがあり、大規模な導入には送電網の整備も必要となります。風力発電は、騒音や景観への影響、鳥類への衝突などの問題点が指摘されています。地熱発電は、国立公園内での開発規制など、導入を阻む要因があります。

また、日本のエネルギー政策は、エネルギー安全保障の観点から、エネルギー源の多様化を重視してきました。しかし、再生可能エネルギーの導入拡大には、電力系統の安定化や電力貯蔵技術の開発など、新たな課題も浮上しています。

原子力発電については、安全性確保、放射性廃棄物の処理など、解決すべき課題が多く、国民の理解を得ることも容易ではありません。エネルギー政策の転換には、国民への丁寧な説明と理解を得ることが重要であり、長期的な視点に立った戦略と、それを実行する強いリーダーシップが求められます。

SBT(Science Based Targets)とは?

SBTとは、Science Based Targetsの略で、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。パリ協定で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命前比で2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標を達成するために、企業が設定する排出削減目標を指します。Science Based Targets initiative(SBTi)が認定する、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。SBTiは、CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体によって設立された国際的なイニシアチブです。

CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体

SBTが重要視されている理由は、企業の脱炭素化への取り組みを客観的に評価できる指標となるからです。SBTを取得することで、企業は以下のようなメリットを得られます。

  • ブランドイメージの向上
    環境意識の高まりとともに、消費者は企業の環境への取り組みを重視するようになっています。SBT導入は、企業の持続可能性に対するコミットメントを示すことで、消費者の共感を呼び、ブランドイメージ向上に繋がります。
  • 投資家からの評価向上
    ESG投資が主流となる中、SBTは企業の長期的な成長性を評価する上で重要な指標となっています。SBT導入は、投資家からの信頼獲得、資金調達、企業価値向上に貢献します。
  • 競争力強化
    SBT達成に向けた取り組みは、省エネルギー化、資源効率の向上、イノベーション促進など、企業の競争力強化に繋がる効果も期待できます。
  • リスク管理
    気候変動による事業リスクは、今後ますます高まることが予想されます。SBT導入は、気候変動リスクを早期に特定し、対策を講じることで、事業の安定化に貢献します。
  • 従業員のエンゲージメント向上
    環境問題への意識が高い従業員にとって、SBT導入は企業への愛着や誇りを高め、モチベーション向上に繋がります。

SBTは、企業規模や業種を問わず、あらゆる企業にとって有益な取り組みです。

技術革新における課題

技術革新における課題

カーボンニュートラルの実現には、技術革新が不可欠です。再生可能エネルギーの導入拡大、省エネルギー化、CO2回収・利用・貯留(CCUS)技術の開発、水素エネルギーの利用、次世代蓄電池の開発など、様々な分野で技術革新が求められています。

日本は、これまで技術立国として、世界をリードする技術開発を行ってきました。しかし、近年では、中国や韓国などの新興国の台頭により、アジア圏の技術開発競争が激化しています。特に、再生可能エネルギー分野では、中国が世界最大の市場と生産能力を有しており、日本は後れを取っている状況です。

また、日本は、基礎研究に強く、革新的な技術を生み出す力は高いものの、実用化や事業化に時間がかかる傾向があります。カーボンニュートラルの実現には、スピード感を持った技術開発と社会実装が求められます。

そのためには、研究開発への投資を拡大し、産学官連携を強化することで、イノベーションを促進する必要があります。また、規制改革や実証実験の推進など、新たな技術を迅速に社会実装できる環境を整備することが重要です。

政策・制度における課題

日本のカーボンニュートラルに向けた政策は、他の先進国と比べて遅れていると言わざるを得ません。政策の遅れは、企業の投資意欲を阻害し、技術革新を遅らせる要因となっています。また、国際競争力の低下にもつながる可能性があります。

EUは、カーボンニュートラルに向けた政策を日本と比較して数年前先をいく形で積極的に推進しており、企業に対してCO2排出量削減の目標設定や排出量取引制度の導入などを義務付けています。また、再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギー化などの政策にも力を入れています。

一方、日本の政策は、目標設定や規制が緩く、企業の自主的な取り組みに委ねられている部分が多いのが現状です。政策の遅れは、企業の競争力を低下させるだけでなく、日本の経済成長を阻害する要因にもなりかねません。

カーボンニュートラル実現のためには、政府が長期的なビジョンと明確な目標を掲げ、強力なリーダーシップを発揮する必要があります。また、炭素価格付けなど、市場メカニズムを活用した効果的な政策を導入し、企業の脱炭素化を促す必要があります。さらに、国際的な連携を強化し、世界の脱炭素化をリードしていくことが重要です。

日本の独自の取り組み

世界に後れを取っていると言われる日本ですが、独自の取り組みも進んでいます。

  • 技術の向上: 日本は、水素エネルギー、燃料アンモニア、CCUS技術など、カーボンニュートラルに貢献する様々な分野で世界をリードする技術力を持っています。燃料電池車(FCV)「MIRAI」を世界で初めて市販化するなど、水素社会の実現に向けて積極的に取り組んでいます。

 

  • 地熱などの地域特性を活かした取り組み: 日本は、火山国であり、地熱資源が豊富です。地熱発電は、安定した電力供給が可能で、CO2排出量も少ない再生可能エネルギーです。温泉地など、地域特性を活かした地熱発電の導入が進められています。

 

  • 企業の積極的な取り組み: 多くの日本企業がSBT認定に加盟し始めている(2024年世界加盟数として第1位)など、積極的にカーボンニュートラルに取り組んでいます。

 

  • 国民運動: 環境省は、「COOL CHOICE」(賢い選択)をスローガンに、国民一人ひとりが地球温暖化対策に資する行動をとるよう呼びかけています。省エネ家電の購入、公共交通機関の利用、マイバッグの持参など、日常生活の中でできることから実践することが重要です。

これらの取り組みをさらに加速させ、世界をリードするカーボンニュートラル国家を目指していく必要があります。

SBT(Science Based Targets)とは?

SBTとは、Science Based Targetsの略で、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。パリ協定で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命前比で2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標を達成するために、企業が設定する排出削減目標を指します。Science Based Targets initiative(SBTi)が認定する、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。SBTiは、CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体によって設立された国際的なイニシアチブです。

CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体

SBTが重要視されている理由は、企業の脱炭素化への取り組みを客観的に評価できる指標となるからです。SBTを取得することで、企業は以下のようなメリットを得られます。

  • ブランドイメージの向上
    環境意識の高まりとともに、消費者は企業の環境への取り組みを重視するようになっています。SBT導入は、企業の持続可能性に対するコミットメントを示すことで、消費者の共感を呼び、ブランドイメージ向上に繋がります。
  • 投資家からの評価向上
    ESG投資が主流となる中、SBTは企業の長期的な成長性を評価する上で重要な指標となっています。SBT導入は、投資家からの信頼獲得、資金調達、企業価値向上に貢献します。
  • 競争力強化
    SBT達成に向けた取り組みは、省エネルギー化、資源効率の向上、イノベーション促進など、企業の競争力強化に繋がる効果も期待できます。
  • リスク管理
    気候変動による事業リスクは、今後ますます高まることが予想されます。SBT導入は、気候変動リスクを早期に特定し、対策を講じることで、事業の安定化に貢献します。
  • 従業員のエンゲージメント向上
    環境問題への意識が高い従業員にとって、SBT導入は企業への愛着や誇りを高め、モチベーション向上に繋がります。

SBTは、企業規模や業種を問わず、あらゆる企業にとって有益な取り組みです。

まとめ:

日本は、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みにおいて、世界をリードする存在にはなっていません。経済構造、エネルギー政策、技術革新、政策・制度など、様々な課題が山積しています。

しかし、課題を克服し、持続可能な社会を実現するために、日本は積極的に行動していく必要があります。政府、企業、そして国民一人ひとりが、それぞれの役割を認識し、協力して取り組むことが重要です。

具体的には、

  • 政府は、長期的なビジョンと明確な目標を掲げ、強力なリーダーシップを発揮する。
  • 企業は、積極的に技術開発や設備投資を行い、CO2排出量の削減に取り組む。
  • 国民は、カーボンニュートラルの重要性を理解し、省エネルギーや再生可能エネルギーの利用など、日常生活の中でできることから実践する。

これらの基本的な取り組みを加速させ、日本独自の強みを活かしていくことができれば、カーボンニュートラルを実現し、持続可能な社会の実現も不可能ではありません。

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