はじめに
地球温暖化は、私たちの社会や経済に深刻な影響を与える喫緊の課題です。企業は、この地球規模の課題に対して、積極的に責任を果たしていく必要があります。その中で、科学的根拠に基づいた目標設定イニシアチブ(SBTi)は、企業が気候変動対策に取り組むための道筋を示す、重要な枠組みとなっています。SBTiは、パリ協定の目標達成に整合した、野心的な排出削減目標の設定を支援することで、企業の持続可能な成長を促進します。
しかし、特にリソースに限りのある中小企業にとって、SBTiへの対応は容易ではありません。限られた資源の中で、どのように進めていけばよいか、多くの疑問や課題に直面するでしょう。
本記事では、中小企業の皆様に向けて、SBTの基礎知識から、基準年・目標年度の設定方法、よくある質問、導入ステップまで、わかりやすく解説いたします。SBTへの理解を深め、自社の事業に合った目標設定と、その達成に向けた取り組みを進めるための一助となれば幸いです。
さあ、共に未来を創造しましょう。SBTiを通じて、地球温暖化防止に貢献し、持続可能な社会を実現するために、第一歩を踏み出しましょう。
※目標設定について、2024年10月に一部改訂されました。これまでとは設定方法が大きく変わりましたのでご注意下さい。
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本記事のサマリー
- SBTとは、企業が気候変動対策に貢献するための、科学的根拠に基づいた排出削減目標です。
- SBT導入により、企業はブランドイメージ向上、投資家からの評価向上、従業員のエンゲージメント向上、イノベーション促進、リスク管理強化、コスト削減といったメリットを得られます。
- 中小企業にとっても、SBT導入は多くのビジネスチャンスにつながります。
- SBTiへの申請には、基準年と目標年度の設定が必須です。
- SBT導入は、申請準備、申請アカウント取得、SBTiへの申請、登録費用支払い、認定取得、認定取得の公表と進捗状況報告というステップで行われます。
近年、地球温暖化による気候変動が深刻化し、世界中で異常気象や自然災害が多発しています。この危機的な状況を食い止めるためには、地球全体の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5℃に抑える必要があるとされています。
そのために、企業が積極的にCO2排出量削減に取り組むことが求められており、そのための指標として注目されているのが「SBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づいた目標)」です。
SBTは、企業に対し、科学的な根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標の設定を促す国際的なイニシアチブである「SBTi(Science Based Targets initiative:科学的根拠に基づいた目標設定イニシアチブ)」によって推進されています。SBTiは、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体が共同で設立しました。
SBTの目標設定基準は、パリ協定の目標達成に整合しており、企業はSBTiに目標を承認されることで、自社の排出削減目標が地球温暖化対策に貢献することを明確に示すことができます。
SBTの目的
- 企業の気候変動対策を加速させる
- パリ協定の目標達成に貢献する
- 科学的な根拠に基づいた排出削減目標の設定を促進する
- 企業の持続可能な成長を支援する
SBTのメリット
- 企業のブランドイメージ向上
- 投資家からの評価向上
- 従業員のエンゲージメント向上
- イノベーションの促進
- リスク管理の強化
- コスト削減
SBTは、世界中の多くの企業が導入しており、地球温暖化対策において重要な役割を担っています。
中小企業のためのSBT - なぜ重要なの?
SBTは、これまで大企業を中心に導入が進んできましたが、近年では中小企業にも導入の動きが広がっています。中小企業は、大企業に比べて事業規模が小さく、資金や人材も限られているため、気候変動対策への対応が遅れているという現状があります。
しかし、中小企業も地球温暖化対策に貢献することは重要です。中小企業は大企業のサプライチェーンの一部を担っていることが多く、中小企業がCO2排出量を削減することで、サプライチェーン全体での排出量削減につながります。また、中小企業は地域経済を支える重要な存在であり、中小企業が気候変動対策に取り組むことで、地域社会全体の持続可能性を高めることができます。
さらに、中小企業にとってSBTの導入は、ビジネスチャンスにもつながります。環境意識の高い消費者や投資家が増加しており、SBTiに目標を承認された企業は、これらのステークホルダーから高い評価を得ることができます。
中小企業がSBTを導入するメリット
- 大企業との取引拡大
- 投資家からの資金調達
- 従業員の採用促進
- ブランドイメージ向上
- コスト削減
- 新規ビジネスの創出
SBTは、中小企業にとっても多くのメリットをもたらします。中小企業は、SBTを導入することで、地球温暖化対策に貢献するとともに、持続可能なビジネス成長を実現することができます。
基準年・目標年度設定の基礎 - 正しい理解で目標達成
SBTiでは、企業が科学的な根拠に基づいた排出削減目標を設定するために、基準年と目標年度を設定する必要があります。基準年とは、排出量削減目標の基準となる年であり、目標年度とは、目標を達成する期限となる年です。
※目標設定について、2024年10月に一部改訂されました。これまでとは設定方法が大きく変わりましたのでご注意下さい。
基準年、目標年度の設定について
基準年は、2015年以降の任意の年を選択することができます。ただし、複数年にわたる平均基準年は認められていません。基準年を選択する際には、以下の点に注意する必要があります。
- 最新の排出量データに基づいて基準年を設定する。
- 基準年以降の排出量削減の進捗状況を把握できるような年を設定する。
- 将来の事業計画を考慮して基準年を設定する。
目標年度は、基準年から5年以上10年以内の年を設定する必要があります。目標年度を選択する際には、以下の点に注意する必要があります。
- 短期的な目標と長期的なビジョンのバランスを考慮する。
- 業界の動向や技術革新を考慮する。
- 目標達成のための具体的な計画を立てられるような年を設定する。
- 目標が今年の前半(つまり6月末まで)に提出された場合、期間提出年を含みます。年の後半に提出された場合は、フレームは翌年の初めから始まります。
例)
提出日2025年1月〜6月の場合は、2029年〜の目標年を設定できます。
提出日2025年7月〜12月の場合は、2030年〜の目標年を設定できます。
では、上記、参考資料をもとに、具体的な設定方法を解説いたします。
①基準年度
②目標年度
③削減率
④年間排出量管理の開始月
決めることは、①基準年度、②目標年度。ここが決まると、③削減率が確定します。(パリ協定に定められた科学的根拠い基づく設定になっています)そして
④年間排出量管理の開始月を決定します。(一般的には会計年度に合わせる会社がほとんど)
2032年までに、2023年基準で、排出量 50.4% 削減する。
会計年度採用:01/04/2023 – 31/03/2032
となります。
※目標設定に関しまして、一部2024年10月に改訂されました。これまでとは設定方法が大きく変わりましたのでご注意下さい。
よくある質問 - 疑問を解消!
Q1: SBTiの目標設定基準は、どのように決められていますか?
A1: SBTiの目標設定基準は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の知見に基づいて決定されています。IPCCは、世界中の科学者が参加する国際的な組織であり、気候変動に関する科学的な評価を行っています。SBTiは、IPCCの報告書を参考に、地球温暖化を1.5℃に抑えるために必要な排出削減量を算出し、企業の目標設定基準を定めています。
Q2: 中小企業がSBTを導入するには、どのような準備が必要ですか?
A2: 中小企業がSBTを導入するには、まず自社のCO2排出量を把握する必要があります。排出量の算定には、GHGプロトコルと呼ばれる国際的な基準を用います。排出量を把握したら、SBTiの目標設定基準に基づいて、削減目標を設定します。目標設定の際には、自社の事業規模や業種、技術的な feasibility などを考慮する必要があります。
Q3: SBTの目標を達成できない場合は、どうなりますか?
A3: SBTの目標を達成できなかった場合でも、ペナルティはありません。しかし、SBTiは、企業が目標達成に向けて努力することを期待しています。目標達成が困難になった場合は、SBTiに相談し、目標の見直しを行うことができます。
Q4: SBTの導入には、どのくらいの費用がかかりますか?
A4: SBTの導入費用は、企業の規模や業種、コンサルタントの利用の有無などによって異なります。一般的に、中小企業の場合は、数十万円から数百万円程度の費用がかかるとされています。SBTの導入費用は、国や地方自治体による補助金制度を利用できる場合があります。
SBT導入のステップ - 具体的な手順を解説
SBT導入は、以下のステップで進めます。
- SBT申請の準備
・自社が取得要件を満たしているかチェック
・基準年となる年度のScope1、Scope2排出量データ、目標年度の設定
・直近の決算書(BS/PL)の準備
・その他の企業情報など… - SBT申請アカウント取得
- SBTiへの申請
- 審査完了後、発行されたINVOICEに従い、登録費用の海外送金(1,250ドル)
- SBT認定取得完了
- 認定取得の公表、並びに年に一度の進捗状況の報告(Webサイトなど自社媒体にて)
まとめ:SBT導入で中小企業の未来を拓く
SBT導入は、中小企業にとっても持続可能な未来への鍵となります。地球温暖化という喫緊の課題に対して、SBTは具体的な行動指針を提供します。排出削減目標を設定し、その達成に向けて努力することで、企業は環境への責任を果たすだけでなく、様々なビジネスチャンスを獲得することができます。
SBT導入は、決して容易な道のりではありません。しかし、それは同時に、企業の成長と進化を促す挑戦でもあります。自社の排出量を正確に把握し、野心的な目標を設定し、その達成に向けて具体的な計画を立て、実行していく。このプロセスを通じて、企業は新たな技術やビジネスモデルを開発し、競争力を強化することができます。
中小企業の皆様、SBT導入という一歩を踏み出し、持続可能な社会の実現に向けて共に歩みましょう。「未来の人類に誇れる2030年を、ともに。」
参考資料:
CRITERIA ASSESSMENT INDICATORS FOR SMALL AND MEDIUM ENTERPRISES (SME)
Version 1.0
October 2024
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