SBTiレポートが示す「SBTの真価」:企業成長と地球貢献の両立

   by kabbara        
SBTiレポートが示す「SBTの真価」:企業成長と地球貢献の両立

「気候変動対策」や「脱炭素」と聞くと、多くの企業担当者様は「コストがかかる」「自社にはまだ早い」といったイメージをお持ちかもしれません。しかし、もしその取り組みが、コストを上回るビジネス上の多大な利益をもたらすとしたらどうでしょうか?SBT(Science Based Targets:科学に基づく目標設定)の導入は、今や単なる環境貢献活動ではなく、企業の競争力そのものを高める「経営戦略」として機能し始めているのです。

本日は、SBTiが発行したレポート「THE IMPACT OF SETTING SCIENCE-BASED TARGETS ON BUSINESSES」 をご紹介します。

 

サマリー:SBT設定企業が手にする「4つの確かな果実」

SBTi(Science Based Targets initiative)が最近発表した詳細なレポートは、SBTを設定した企業が実際にどのような影響を受けているかを明らかにしました 。171社の企業調査と多くの学術研究に基づいたこの報告書によると、驚くべき結果が示されています 。

  • 91%の企業が、SBT設定による全体的なポジティブな影響を報告 。
  • 95%が、企業の「評判」にポジティブな影響があったと回答 。
  • 80%が、「投資家からの認識」が強化されたと実感 。
  • 80%が、「戦略の一貫性と長期ビジョン」に好影響があったと回答 。

1. 企業の「信頼」が劇的に向上する

現代のビジネスにおいて、ステークホルダー(利害関係者)からの「信頼」は、企業の最も重要な資産の一つです。SBTの導入は、この「信頼」を構築する上で、極めて強力なツールとなります。レポートによると、SBTを設定した企業の95%が「評判」へのポジティブな影響を報告しています 。これは、単なるイメージアップにとどまりません。

  • 投資家からの評価: 80%の企業が「投資家の認識と関係が強化された」と回答 。76%が「投資家からの信頼」にポジティブな影響があったと答えています 。SBTという科学的根拠に基づいたコミットメントは、投資家に対し、その企業が将来のリスクを真剣に管理しているという強いシグナルを送ります。
  • 顧客・消費者からの信頼: 67%の企業が「消費者からの認識とブランド信頼」にポジティブな影響があったと報告しています 。また、B2B(企業間取引)においても、69%が「サプライヤーとしての認識」が向上したと回答しており 、SBTが取引先選定の優位に働いていることが伺えます。
  • 業界内での地位: 75%が「セクター内での信頼性」にポジティブな影響があったと回答 。SBTは、その企業が業界のリーダーとして気候変動問題に取り組んでいることの「ゴールドスタンダード(絶対的な基準)」として機能します 。

2. SBTが「経営の羅針盤」となり、戦略とレジリエンスを強化する

SBTの真価は、対外的なアピールだけではありません。むしろ、社内の「経営戦略」を研ぎ澄ます「羅針盤」としての役割にこそ、その強力な効果があります。レポートでは、80%もの企業が「戦略の一貫性と長期ビジョン」にポジティブな影響があったと報告しています 。

ケーススタディとして紹介されている大手ビール会社のHEINEKENは、SBTを「北極星(North Star)」と表現しています 。SBTという明確な共通目標が、サプライチェーン、調達、財務、サステナビリティといった全部門を一つに束ね、全社的な行動を加速させているのです 。

さらに、SBTは企業の「レジリエンス(強靭性)」を高めます。
71%の企業が「将来の規制変更に対するレジリエンス」が向上したと回答 (※レポート本文の72% は71%の丸めと思われます)。各国で炭素税や排出量取引制度の導入が進む中、SBTに沿って早期から脱炭素を進めることは、将来の規制リスクや移行リスク(低炭素経済への移行に伴うリスク)を回避し、管理するための具体的な行動となります 。

また、67%が「競合他社との競争力」が向上したと回答しており 、SBTへの取り組みが、リスク管理と同時に新たなビジネスチャンスの獲得にもつながっていることがわかります。

3. 気になる「コスト」と「リターン」。SBTは財務にどう影響するか?

SBT設定に際し、多くの企業が懸念するのが「コスト」の問題でしょう。レポートでも、唯一「短期的な運用コスト(Operating costs)」に関しては、31%の企業がネガティブな影響を報告しました 。脱炭素への初期投資が必要なのは事実です。しかし、注目すべきは、そのコストは「長期的なリターン」によって相殺され、むしろプラスになる可能性が高いという点です。

  • 期的な財務パフォーマンス: 92%の企業が、SBTが「長期的な財務パフォーマンス」に中立またはポジティブな影響を与えたと回答しています(うち41%がポジティブと回答) 。短期的なコスト増を報告した企業でさえ、長期的な財務への影響はネガティブとは捉えていないのです。
  • 利益への影響: 複数の学術研究が、「SBTの導入やその後の排出削減は、企業の粗利益や収益性に悪影響を与えない」ことを示しています 。
  • 投資対効果: ある研究では、SBT設定企業は当初、気候変動イニシアチブに年間60〜64%多く支出するものの 、その投資は将来的にCO2排出量で17〜19%、コストで22〜33%の年間削減につながると推定されています 。
  • 資金調達の優位性: さらに、欧州中央銀行(ECB)の最近の分析では、SBTiにコミットしている銀行は、排出目標を持つ企業に対してより有利な融資条件(平均16ベーシスポイントの金利割引)を提供していることが示されました 。SBTは、将来的に「資金調達コストの削減」にも寄与する可能性があるのです。

SBTは、短期的な「コスト」ではなく、長期的なリターンを生む「投資」であるという視点が重要です。

4. 地球と企業の「未来」のために。脱炭素を加速させる力

そしてもちろん、SBTは本来の目的である「気候変動対策」において、絶大な効果を発揮します。SBTを設定した企業は、自社の取り組みが加速することを実感しています。

  • 90%が「気候変動への野心(アンビション)」にポジティブな影響があったと回答 。
  • 86%が「脱炭素化のペース」にポジティブな影響があったと回答 。

これらの「主観」は、客観的な「データ」によって裏付けられています。 複数の学術研究が、SBT(特にSBTiによって検証された目標)を持つ企業は、目標を持たない企業よりも「速く」排出量を削減していることを一貫して示しています 。

特に注目すべきは、「ネットゼロ目標(2050年までに排出量を実質ゼロにする目標)」を持つ企業の影響です。 近期間目標(Near-term targets)のみの企業(88%がポジティブと回答 )と比較し、ネットゼロ目標も併せ持つ企業では96%が全体的なポジティブな影響を報告しており 、そのうち「非常にポジティブ」と回答した割合は56%と、近期間目標のみの企業(39%)を大幅に上回りました 。

より高く、より長期的な目標を設定することが、より大きなビジネス上の利益にもつながっているのです。

まとめ:SBTは、未来を切り拓く「戦略的投資」である

SBTは、もはや一部の先進企業だけが行う「社会貢献」や「コストのかかる義務」ではありません。企業の「信頼」を築き、「経営戦略」の核となり、「財務的なレジリエンス」を高め、そして本来の目的である「脱炭素」を強力に加速させる、極めて合理的な「経営戦略」です。気候変動という世界共通の課題に対し、科学的根拠に基づいた行動を起こすことは、地球の未来を守るだけでなく、企業の未来を守り、新たな競争力を生み出すことにつながります。

本記事は、SBTiが発行したレポート「THE IMPACT OF SETTING SCIENCE-BASED TARGETS ON BUSINESSES」に基づき作成されました。

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