炭素貯留の推進と土壌炭素クレジット購入に関する海外事例

   by Tsuyoshi Mizushima        
炭素貯留の推進と土壌炭素クレジット購入に関する海外事例

海外では、土壌における炭素貯留や土壌炭素クレジット取引が日本と比べると進んでいます。例えば農家を支援して炭素貯留を推進する企業や、積極的に土壌炭素クレジットを購入する企業の増加が見られます。

本日は、知的資産創造2022年9月号、自然を利用した炭素貯留がもたらす「土壌炭素クレジット」から、抜粋した土壌炭素クレジットに関する海外事例をご紹介いたします。

ランドオレークス(米国)の土壌炭素クレジット創出

米国最大の農業協同組合であるランドオレークス(Land O’Lakes)は、土壌炭素クレジットの創出を推進しています。その取り組みは、サステナビリティ事業部門の子会社トゥルーテラー(Truterra)と農業サービス事業部門のウィンフィールド・ユナイテッド(WinfieldUnited)が協力して行っています。

トゥルーテラーは「プロジェクト実施者」として、農家に農場管理ツールの提供や農業技術支援を行い、炭素貯留を推進しています。ウィンフィールド・ユナイテッドは「農業技術支援企業」として、農家に対して炭素貯留活動を行うための支援を提供しています。

農家は炭素貯留プログラム「TruCarbon」に参加することで、炭素貯留を行う農法を実施し、過去最大5年間の炭素貯留に対して炭素1トン当たり20ドルの報酬を受け取ることができます。農家はトゥルーテラーとの20年間の契約を結び、契約期間中は同社の農場管理ツールを利用する必要があります。炭素貯留量は、農家が登録した営農データ、衛星データ、センサーデータ、AI、定期的な土壌サンプリングなどによって判定されます(費用はランドオレークスが負担)。

2021年には、土壌炭素クレジットの売却総額が400万ドル以上(農家1軒当たり平均2万ドルの支払い)になりました。2022年からはプログラムを全米に拡大する予定であり、農業技術支援とハイブリッド報酬を導入して、より多くの農家が参加しやすくなるよう取り組んでいます。これにより、農家は炭素貯留農業を始めるための費用負担を軽減し、炭素貯留を持続することができるようになります。

カーギル(米国)のサプライチェーン内における土壌炭素クレジット創出

穀物商社のカーギル(Cargill)は、自社のCO2排出量を相殺する手段として、土壌炭素クレジットの創出と買い取りを自社サプライチェーン内で推進しています。カーギルは「カーギル・リージェンコネクト」(RegenConnect)というプログラムを開始し、農家による炭素貯留1トン当たりの支払いを行っています。農家はプログラムに参加する際に農法を登録し、炭素貯留量はMRVベンダーであるリグロー(RegrowAg)によって測定・検証されます。対象となる農法は被覆作物の栽培、減農薬、不耕起栽培などです。

カーギルは農業技術支援とハイブリッド報酬方式を採用しており、ランドオレークスの事例と同様に取り組んでいます。また、カーギルは米国の農家や畜産農家のために全国規模の炭素市場を作るコンソーシアム(ESMC)の創設メンバーでもあります。このような取り組みは将来的に土壌炭素クレジットのビジネス展開につながる施策となり得ます。

マイクロソフト(米国)の土壌炭素クレジット購入と内部控除

マイクロソフト(Microsoft)は、CO2の排出削減を重視しています。排出を減らすことができない場合には、炭素クレジットを購入して相殺しています。同社は購買レポートを公開しており、土壌炭素貯留を推進するために農地や放牧地での炭素貯留に焦点を当てています。土壌は陸上の炭素貯蔵の大部分を占めており、これに基づき炭素クレジットを積極的に購入する方針です。

マイクロソフトは、炭素クレジットを独自に「高耐久性」「低耐久性」「中耐久性」のカテゴリーに分類しています。高耐久性のクレジットは供給が限られており、高価ですが、低耐久性のクレジットは低コストで手に入りやすく、短期的な温暖化対策に役立つと考えています。

炭素再放出のリスクや炭素貯留量の測定・報告・検証の標準が不足している場合でも、マイクロソフトは購入を避けず、内部控除という安全策を導入しています。具体的には、疑問のあるプロジェクトの場合には、購入クレジットの10%を利用せず、90%のみを社内の排出量相殺に使用しています。

2022年度、マイクロソフトは21件のプロジェクトから150万トン以上の炭素貯留で創出された炭素クレジットを契約し、そのほとんどが低耐久性のクレジットです。将来的には、炭素貯留量の測定標準が普及することで内部控除の割合は減ると見込んでいます。

このように、「低耐久性」クレジットの欠点を補いながら利用を進めることで、短期的な温暖化対策を加速することができると評価されています。

出典)第三回 自然を利用した炭素貯留がもたらす「土壌炭素クレジット」より

業種・規模を問わず、すべてのみなさんが利用プレーヤーとなることができます。やむを得ず排出されるCO2を相殺する必要に迫られている企業が土壌炭素クレジットを活用し、オフセット商品・サービスなどを提供することで、新事業や新サービスを創出することができます。また、生活者に向けてもオフセット商品やオフセット機会(寄付)などの提供を契機にして新サービスに誘導することも可能となります。カーボンニュートラル実現への具体策として、土壌炭素クレジットの活用をぜひご検討下さい。

最後まで、お読みいただき有難うございました。

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