今注目!精度の高い炭素貯留量測定の技術をご紹介

   by Tsuyoshi Mizushima        
今注目!精度の高い炭素貯留量測定の技術をご紹介

土壌における炭素貯留の方法は、主に「バイオ炭の利用」と「炭素貯留農業」があります。バイオ炭では炭素貯留が安定しているため、計算式を用いて簡単に測定できます。一方、炭素貯留農業では土壌中の炭素貯留量が変動するため、定期的な実測が必要です。

ただし、現在の測定精度には課題があり、高精度な測定方法が求められています。物理的なサンプリングだけでは費用や精度の問題が生じます。広大な農地に対してサンプリングを増やすと費用が高くなります。しかし、限定すると精度が低下。この問題に対する解決策として、デジタル技術を活用した炭素貯留量の測定方法があります。現在、弊社も注目する、デジタル技術を使用した炭素貯留量の測定の具体的な事例を2つご紹介します。

RegrowAg社サイトより

1)リグロー(米国)の衛星リモートセンシングと土壌炭素クレジット見積

リグロー(RegrowAg)は、炭素貯留量の判定をサポートする会社で、炭素貯留量の測定・検証・報告を支援するツール「フルーロセンス(FluroSense)」を提供しています。このツールには、炭素貯留量を土壌炭素クレジットとして評価する場合の見積もりを示す機能や、クレジット認証機関や第三者検証機関への報告書作成を支援する機能があります。さらに、多くの農場管理システムとも連携することができます。

同社では、農家が登録した農地情報や営農データ、衛星によるリモートセンシングデータ、AIと統計、DNDCモデル(土壌中の炭素循環を推定するモデル)を活用して炭素貯留量を測定し、炭素貯留の継続性を確認しています。DNDCモデルは、欧米や中国などで広く活用され、高い推定精度を持つことから選ばれています。これらを組み合わせて炭素貯留量の予測モデルを作成し、その後は最小限の土壌サンプリングを行うことで、効率的に予測モデルの精度を向上させることができます。FluroSenseに基づく炭素貯留量測定の精度は90%です。

炭素貯留の継続性の確認には、衛星による農地の追跡機能を使用しています。この追跡機能は、複数の衛星による観測データを基にして、炭素貯留を行う農法の継続性を確認します。農法の継続性は、土壌表面を覆う緑葉や茎の発達状況や、不耕起などを含みます。この追跡機能の開発・試験・応用には、米国農務省、NASA、バイエル、ジョン・ディアなどから資金提供と支援が行われています。

リグロー(RegrowAg)は、デジタル技術を活用して炭素貯留量の予測モデルと農地の追跡機能を開発し、炭素貯留量の測定精度の向上に取り組んでいます。同社のセンシング範囲は広範囲の地域をカバーできるように設計されており、河川流域や米国農務省の作物報告地区など、大規模な単位で結果をまとめて報告することができます。そのため、国や州、郡などで土壌保全プログラムが進行している場合、進捗状況を評価・比較し、支援が必要な地域を特定することができます。この仕組みは、複数の地域で炭素貯留を行う際に非常に役立ちます。

2022年2月時点で45カ国以上の約8万900ヘクタール(約2億エーカー)の土壌を監視し、7万7000トン以上の炭素貯留を支援しています。FluroSenseとそのサポート製品を利用する有料会員企業には、カーギル、農薬大手のバイエル、食品大手のジェネラル・ミルズなどが含まれています。

2)クラウド・アグロノミクス(米国)の高精細な画像によるリモートセンシング

クラウド・アグロノミクス(Cloud Agro-nomics)は、高精細なハイパースペクトル画像とAIを活用して炭素貯留量の測定を行うMRVベンダーです。同社は炭素貯留量の測定精度が高く、保険会社などに向けてビジネス展開しています。

Cloud Agro-nomics社サイトより

炭素貯留量の測定は、土壌サンプルとハイパースペクトル画像を基に予測モデルを作成して行います。農家が一度だけ土壌サンプルを採取し、その後は年に2回、作付け前と収穫後にハイパースペクトルカメラを搭載した飛行機で農地上空から画像を撮影し、データをクラウド上に収集します。同社は気候、土壌、作物の種類が異なる米国の11州で、土壌サンプルとハイパースペクトル画像による測定結果を比較して予測モデルの精度を検証しています。その結果、両者の差異は10%未満でした。クラウド・アグロノミクスの主な活動地域は、炭素クレジット取引が盛んなオーストラリアなどです。同社は衛星データやIoTデータも活用して炭素貯留量の測定精度を向上させるとともに、データの収集から統合、整備、分析までの一連の流れを標準化し、効率化を図っています。

いかがでしょうか。なんだかすごい世界です。
2030年の目標達成へ向けて、スピードアップしてまいります。

本日もお読みいただきまして、ありがとうございました。

参考:
リグロー(RegrowAg)社
クラウド・アグロノミクス(Cloud Agro-nomics)社

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