はじめに
地球温暖化は、私たちの社会や経済に深刻な影響を与える喫緊の課題です。世界各国で脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速する中、企業はCO2排出量削減において重要な役割を担っています。
本記事では、海外企業のCO2削減事例を紹介し、その取り組みから得られる教訓や、日本企業が参考にできるポイントについて削減方法のジャンルを分けて紹介していきます。
サマリー
・海外企業は、再生可能エネルギーの導入、サプライチェーンにおける排出量削減、革新的な技術の活用など、様々な方法でCO2排出量削減に取り組んでいる。
・CO2排出量取引制度は、CO2排出量削減を効率的に促進するための有効な手段となる。
・従業員の意識改革や行動変容を促すことも、CO2排出量削減には重要である。
・サーキュラーエコノミーへの移行は、資源の有効活用とCO2排出量削減の両立を可能にする。
・日本企業も、海外企業の事例を参考に、自社の事業特性に合ったCO2削減の取り組みを進めることが重要である。
多くの企業が、事業活動で使用する電力を再生可能エネルギーに転換することでCO2排出量を削減しています。 太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電など、様々な再生可能エネルギー源が活用されています。
事例:
Google:
2017年に世界で初めて、事業で使用する電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを達成しました。
- Googleは、風力発電や太陽光発電などのプロジェクトに積極的に投資することで、再生可能エネルギーの利用を拡大しています。2020年には、5.5GWの再生可能エネルギーを購入し、世界最大の企業購入者となりました。
- データセンターの電力効率を高めるための技術開発にも取り組んでおり、AIを活用した冷却システムの導入などにより、エネルギー消費量を大幅に削減しています。
- これらの取り組みによって、Googleは年間数百万トンものCO2排出量を削減しています。
Apple:
製品の製造やデータセンターの運営に必要な電力を100%再生可能エネルギーで賄っています。
- Appleは、サプライヤーにも再生可能エネルギーの利用を促し、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減を目指しています。
- Appleは、世界中のApple Storeやオフィスに太陽光パネルを設置するなど、自社施設での再生可能エネルギーの利用も拡大しています。
- また、Appleは、再生可能エネルギーの普及を促進するために、地域社会への投資も行っています。
IKEA:
2030年までに、事業で使用する電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げています。
- IKEAは、店舗の屋根に太陽光パネルを設置したり、風力発電所を建設したりすることで、再生可能エネルギーの導入を進めています。
- 2020年には、90%以上の電力を再生可能エネルギーで賄うことに成功しています。
- IKEAは、再生可能エネルギーの導入だけでなく、省エネルギー化にも力を入れており、LED照明の導入や建物の断熱性能向上などに取り組んでいます。
Amazon:
2025年までに事業活動で使用する電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げ、世界最大の再生可能エネルギー購入企業となっています。
- Amazonは、世界中で風力発電や太陽光発電プロジェクトに投資し、再生可能エネルギーの開発を促進しています。2020年には、2.3GWの再生可能エネルギーを新たに導入しました。
- Amazonは、再生可能エネルギーの利用だけでなく、配送車両の電化や物流拠点の省エネルギー化など、CO2排出量削減に向けた様々な取り組みを行っています。
BMW Group:
生産工場で使用する電力を100%再生可能エネルギーに転換することを目標に掲げています。
- BMW Groupは、水力発電、風力発電、太陽光発電など、様々な再生可能エネルギー源を活用しています。
- 2020年には、世界中の生産工場で使用する電力の70%を再生可能エネルギーで賄うことに成功しています。
- BMW Groupは、電気自動車の開発・普及にも力を入れており、CO2排出量の削減に貢献しています。
サプライチェーンにおける排出量削減
企業は、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減にも取り組んでいます。 原材料の調達から製品の製造、輸送、販売、廃棄に至るまで、サプライチェーン全体でのCO2排出量を把握し、削減するための取り組みが重要です。
事例:
Walmart:
サプライヤーに対し、CO2排出量削減目標の設定を義務付けています。
- Walmartは、サプライヤーに省エネルギー化や再生可能エネルギーの導入を促すことで、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減を目指しています。
- サプライヤーとの連携を強化し、排出量削減のための情報共有や技術支援を行っています。
- Walmartは、2030年までにサプライチェーン全体で1ギガトンのCO2排出量を削減することを目標に掲げています。
Unilever:
持続可能な調達を推進し、原材料の生産から製品の輸送に至るまで、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減に取り組んでいます。
- Unileverは、森林破壊を防ぐための認証制度を導入したり、輸送効率を高めるための取り組みを行ったりしています。
- サプライヤーと協力し、環境負荷の少ない製品の開発にも取り組んでいます。
- Unileverは、2030年までにサプライチェーン全体でCO2排出量を半減することを目標に掲げています。
Patagonia:
リサイクル素材やオーガニックコットンなど、環境負荷の少ない素材を積極的に使用しています。
- Patagoniaは、製品の長寿命化を促すために、修理サービスを提供したり、中古品の販売を行ったりしています。
- 消費者に対しても、環境問題への意識を高めるための情報発信を行っています。
- Patagoniaは、2025年までにサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成することを目標に掲げています。
Nestlé:
2050年までにサプライチェーン全体でネットゼロを達成することを目標に掲げています。
- Nestléは、サプライヤーと協力して、農業における排出量削減、森林破壊の防止、再生可能エネルギーの利用などを推進しています。
- トレーサビリティを強化し、サプライチェーン全体の透明性を高める取り組みも行っています。
- Nestléは、サプライヤーに対して、CO2排出量削減のための投資や技術支援を行っています。
Starbucks:
コーヒー豆の生産から店舗での提供に至るまで、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減に取り組んでいます。
- Starbucksは、倫理的な調達を推進し、農家の支援や森林保護に取り組んでいます。
- 廃棄物削減やリサイクルにも力を入れています。
- Starbucksは、2030年までにサプライチェーン全体でCO2排出量を50%削減することを目標に掲げています。
革新的な技術の活用
CO2排出量削減のために、革新的な技術を開発・導入する企業も増えています。 CO2回収・貯留(CCS)技術、大気中からのCO2直接回収技術、水素エネルギー技術、バイオ燃料技術など、様々な技術が開発されています。
事例:
Microsoft:
2030年までに、事業活動で排出するCO2をすべて回収することを目標に掲げています。
- Microsoftは、大気中からCO2を直接回収する技術や、バイオエネルギーとCO2回収・貯留(BECCS)技術などの開発に投資しています。
- AIやクラウド技術を活用し、CO2排出量の削減に貢献するソリューションの開発にも取り組んでいます。
- Microsoftは、CO2回収技術の開発を支援するために、10億ドルの基金を設立しました。
Tesla:
電気自動車(EV)の普及を通じて、CO2排出量削減に貢献しています。
- Teslaは、高性能なEVを開発することで、ガソリン車の代替を促進しています。
- 太陽光発電や蓄電池などの技術と組み合わせることで、持続可能なエネルギーシステムの構築を目指しています。
- Teslaは、2030年までに年間2,000万台のEVを生産することを目標に掲げています。
Climeworks:
大気中からCO2を直接回収する技術を開発・提供しています。
- Climeworksは、回収したCO2を地中に貯留したり、燃料や建材などの製造に利用したりすることで、CO2排出量の削減に貢献しています。
- Climeworksは、2025年までに年間100万トンのCO2を回収することを目標に掲げています。
Carbon Engineering:
大気中から直接CO2を回収する技術を開発し、回収したCO2を燃料に変換する技術も開発しています。
- Carbon Engineeringは、大規模なCO2回収プラントを建設し、CO2排出量削減に貢献することを目指しています。
- Carbon Engineeringは、年間100万トンのCO2を回収できるプラントを建設する計画です。
Beyond Meat:
植物由来の代替肉を開発・販売することで、畜産によるCO2排出量削減に貢献しています。
- Beyond Meatの代替肉は、従来の肉と比べてCO2排出量が significantly 少ないと言われています。
- Beyond Meatは、2030年までに代替肉の生産量を10倍に増やすことを目標に掲げています。
CO2排出量取引・排出権の活用
CO2排出量取引制度を活用することで、CO2排出量削減を促進する企業や団体もあります。 排出権を購入することで、自社の排出量を相殺することもできます。
事例:
欧州連合(EU):
域内排出量取引制度(EU ETS)を導入し、企業にCO2排出枠を割り当て、排出量に応じて取引を義務付けています。
- EU ETSは、市場メカニズムを活用することで、CO2排出量削減を効率的に促進することを目的としています。
- EU ETSは、世界で最も規模の大きい排出量取引制度であり、多くの企業が参加しています。
Disney:
排出権を購入することで、自社のCO2排出量を相殺しています。
- Disneyは、森林保全プロジェクトなどから排出権を購入し、CO2排出量削減に貢献しています。
- Disneyは、2030年までに事業活動で排出するCO2をネットゼロにすることを目標に掲げています。
サーキュラーエコノミーへの移行
製品のライフサイクル全体で環境負荷を低減するために、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を進める企業も増えています。
事例:
H&M:
衣料品の回収・リサイクルプログラムを展開し、資源の循環利用を促進しています。
- H&Mは、古着を回収し、新しい衣料品にリサイクルしたり、他の用途に再利用したりしています。
Philips:
照明器具のリースサービスを提供することで、製品のライフサイクル全体でのCO2排出量削減を目指しています。
- Philipsは、照明器具をリースすることで、製品の回収・リサイクルを促進し、資源の有効活用を図っています。
まとめ
本記事では、海外企業のCO2削減事例を、より多く紹介しました。これらの事例から、企業は再生可能エネルギーの導入、サプライチェーンにおける排出量削減、革新的な技術の活用、CO2排出量取引の活用、従業員エンゲージメントと意識改革、サーキュラーエコノミーへの移行など、多角的な取り組みを通じてCO2排出量削減を目指していることがわかります。
日本企業も、これらの事例を参考に、自社の事業特性に合ったCO2削減の取り組みを進めることが重要です。政府も、企業のCO2削減を支援するための政策を積極的に展開していく必要があります。
地球温暖化は、私たち人類にとって喫緊の課題です。企業、政府、そして個人が協力し、脱炭素社会の実現に向けて積極的に行動していくことが求められています。
SBT(Science Based Targets)とは?
SBTとは、Science Based Targetsの略で、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。パリ協定で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命前比で2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標を達成するために、企業が設定する排出削減目標を指します。Science Based Targets initiative(SBTi)が認定する、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。SBTiは、CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体によって設立された国際的なイニシアチブです。
SBTが重要視されている理由は、企業の脱炭素化への取り組みを客観的に評価できる指標となるからです。SBTを取得することで、企業は以下のようなメリットを得られます。
- ブランドイメージの向上
環境意識の高まりとともに、消費者は企業の環境への取り組みを重視するようになっています。SBT導入は、企業の持続可能性に対するコミットメントを示すことで、消費者の共感を呼び、ブランドイメージ向上に繋がります。 - 投資家からの評価向上
ESG投資が主流となる中、SBTは企業の長期的な成長性を評価する上で重要な指標となっています。SBT導入は、投資家からの信頼獲得、資金調達、企業価値向上に貢献します。 - 競争力強化
SBT達成に向けた取り組みは、省エネルギー化、資源効率の向上、イノベーション促進など、企業の競争力強化に繋がる効果も期待できます。 - リスク管理
気候変動による事業リスクは、今後ますます高まることが予想されます。SBT導入は、気候変動リスクを早期に特定し、対策を講じることで、事業の安定化に貢献します。 - 従業員のエンゲージメント向上
環境問題への意識が高い従業員にとって、SBT導入は企業への愛着や誇りを高め、モチベーション向上に繋がります。
SBTは、企業規模や業種を問わず、あらゆる企業にとって有益な取り組みです。