透明性の高いサプライチェーン構築で顧客の信頼を獲得する方法 – 脱炭素化への貢献 –

   by kabbara        
透明性の高いサプライチェーン構築で顧客の信頼を獲得する方法 – 脱炭素化への貢献 –

はじめに
近年、企業のサプライチェーンにおける環境への影響、特にCO2排出量に注目が集まっています。この記事では、企業がどのように透明性の高いサプライチェーンを構築し、脱炭素化に貢献できるかについて解説します。サプライチェーンの透明性の定義、その重要性、具体的な構築方法、そして成功事例まで、幅広くご紹介します。脱炭素化時代の企業責任を果たし、持続可能な未来を築くためのヒントがここにあります。

この記事のサマリー

  • サプライチェーンの透明性とは、製品やサービスの全過程の情報が公開され、追跡可能であること。
  • サプライチェーンの透明性は、顧客の信頼獲得、ブランドイメージの向上、リスク管理の強化、脱炭素化の推進などに貢献する。
  • 透明性の高いサプライチェーンを構築するには、CO2排出量の把握、排出量削減目標の設定、情報公開、追跡システムの導入など、多岐にわたる取り組みが必要。
  • ブロックチェーン、AI、IoTなどのテクノロジーを活用することで、サプライチェーンの透明性を効率的に高め、脱炭素化を促進することができる。
  • 多くの企業がサプライチェーンの透明性向上と脱炭素化に取り組み、成果を上げている。

サプライチェーンの透明性とは、製品やサービスが原材料の調達から製造、流通、販売、そして消費者に届くまでの全過程において、情報が公開され、追跡可能であることを指します。 GRI(Global Reporting Initiative)では、サプライチェーンの透明性を「組織のバリューチェーン全体における経済、環境、社会への影響に関する情報の可視性」と定義しています (GRI 103: Management Approach 2016)。

近年、環境問題や人権問題への関心の高まりから、サプライチェーンの透明性に対する要求はますます高まっています。特に、地球温暖化対策として、企業にはサプライチェーン全体でのCO2排出量削減 efforts が求められています。経済産業省は、「サプライチェーン強靭化に向けた取り組み」の中で、企業に対し、サプライチェーンにおける環境リスクの情報開示を促進するよう促しています。

透明性の高いサプライチェーンは、消費者に製品の背景にある情報を提供するだけでなく、企業の脱炭素化に向けた取り組みを可視化するという役割も担っています。

例えば、ある食品メーカーが、原材料の生産から輸送、製造、販売に至るまでのCO2排出量をウェブサイトで公開しているとします。消費者は、自分が購入する食品がどれだけのCO2を排出しているのかを知り、環境負荷の低い商品を選択することができます。

このように、サプライチェーンの透明性を高めることで、企業は消費者の環境意識に応え、脱炭素化に向けた取り組みを促進することができます。

なぜサプライチェーンの透明性が重要なのか? - 脱炭素化時代の企業責任

サプライチェーンの透明性を高めることは、脱炭素化時代において、企業にとってより一層重要になっています。

  • 顧客の信頼獲得
    環境問題に関心の高い消費者は、環境負荷の低い製品を選択したいと考えています。2021年のニールセンの調査によると、消費者の73%がサステナビリティに貢献する企業から商品を購入したいと回答しています。サプライチェーンの透明性を高め、CO2排出量などの環境情報を公開することで、企業は環境への責任を果たしていることを示し、顧客の信頼を獲得することができます。

  • ブランドイメージの向上
    環境問題への取り組みは、企業のブランドイメージに大きく影響します。コーン・フェリー・ヘイグループの調査によると、企業の評判の60%はESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みによって決まるとされています。サプライチェーンの透明性を高め、脱炭素化に向けた取り組みを積極的にアピールすることで、企業は環境に配慮した企業として、社会からの評価を高めることができます。

  • リスク管理の強化
    サプライチェーンの透明化により、サプライヤーにおける環境問題や人権問題などのリスクを早期に発見し、適切な対策を講じることが可能になります。「サプライチェーンの可視化とリスク管理」(中央経済社)では、サプライチェーンにおけるリスクを可視化し、分析・評価することの重要性を説いています。

  • 競争力の強化
    環境規制の強化や消費者の環境意識の高まりにより、脱炭素化は企業の競争力を左右する重要な要素となっています。CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の調査によると、サプライチェーンの排出量削減に取り組む企業は、そうでない企業に比べて、収益性が高い傾向にあることが示されています。サプライチェーンの透明性を高め、脱炭素化を推進することで、企業は競争優位性を築くことができます。

  • イノベーションの促進
    サプライチェーン全体で脱炭素化に取り組むことは、サプライヤーとの連携強化や新技術の導入を促進し、イノベーションにつながる可能性があります。

透明性の高いサプライチェーンを構築する方法 - CO2排出量削減への取り組み -

透明性の高いサプライチェーンを構築し、脱炭素化を推進するためには、多角的な取り組みが必要です。以下に、具体的なステップと重要なポイントを詳しく説明します。

1. CO2排出量の把握と可視化

  • 詳細なデータ収集:サプライチェーン全体におけるCO2排出量を正確に把握するため、原材料の調達、製造、輸送、販売、廃棄に至る各段階での排出量を詳細に測定し、データとして蓄積します。
  • スコープ3排出量の算定:特に、自社の直接的な活動以外の排出量であるスコープ3排出量の算定は、サプライチェーン全体の環境負荷を把握するために不可欠です。GHGプロトコルなどのガイドラインを参考に、正確な算定を行いましょう。
  • 排出量の可視化:収集した排出量データをグラフやチャートなどを用いて可視化することで、自社だけでなく、ステークホルダーにも排出状況を分かりやすく伝えることができます。

2. 排出量削減目標の設定と計画策定

  • 科学的根拠に基づいた目標設定 (SBT):パリ協定の目標達成に貢献する、科学的根拠に基づいた排出量削減目標を設定することが重要です。SBTイニシアチブなどの支援を活用し、自社に適切な目標を設定しましょう。
  • 具体的な削減計画の策定:設定した目標を達成するための具体的な計画を策定します。排出量の多い工程を特定し、効果的な削減策を導入することがポイントです。

定期的な進捗管理:設定した目標に対する進捗状況を定期的に監視し、必要に応じて計画を修正します。

3. サプライヤーとの連携強化

  • 情報共有と協力体制の構築:サプライヤーに自社の脱炭素化目標を伝え、排出量削減への協力を求めましょう。定期的な情報交換や合同会議などを通じて、協力体制を構築することが重要です。
  • サプライヤーの評価と支援:サプライヤーの環境パフォーマンスを評価し、排出量削減に向けた取り組みを支援します。技術支援や資金援助など、具体的な支援策を検討しましょう。
  • 契約条項への組み込み:サプライヤーとの契約に、環境基準や排出量削減目標に関する条項を盛り込むことで、連携を強化し、脱炭素化を促すことができます。

4. 再生可能エネルギーの積極的な導入

  • 再生可能エネルギー調達:再生可能エネルギー由来の電力や熱を積極的に調達し、サプライチェーン全体のエネルギー消費に伴うCO2排出量を削減します。
  • オンサイト発電の検討:自社施設や工場に太陽光発電設備などを設置し、再生可能エネルギーを自家発電することも検討しましょう。
  • グリーン電力証書の活用:再生可能エネルギー由来の電力を調達したことを証明するグリーン電力証書を活用することで、環境への取り組みをアピールできます。

5. 輸送効率の向上と低炭素輸送への転換

  • 輸送ルートの最適化: 輸送ルートを最適化し、移動距離や時間を短縮することで、輸送に伴うCO2排出量を削減します。
  • 輸送手段の見直し: トラック輸送から鉄道や船舶輸送など、より環境負荷の低い輸送手段への転換を検討します。
  • モーダルシフトの推進: 複数の輸送手段を組み合わせるモーダルシフトを導入することで、輸送効率を高め、CO2排出量を削減します。
  • 低炭素燃料の活用: 電気自動車やバイオ燃料など、低炭素燃料を活用した輸送手段の導入を検討します。

6. 廃棄物削減と資源循環の促進

  • 3R (Reduce, Reuse, Recycle) の徹底:廃棄物の発生抑制 (Reduce)、再利用 (Reuse)、再資源化 (Recycle) を徹底し、廃棄物削減による環境負荷の低減に取り組みます。
  • サーキュラーエコノミーへの移行:製品や材料をできるだけ長く使い続け、廃棄物を最小限に抑えるサーキュラーエコノミーへの移行を検討します。
  • 廃棄物管理の効率化:廃棄物管理システムを導入し、廃棄物の分別やリサイクルを効率化します。

サプライチェーンの透明性を高めるためのツールとテクノロジー - 脱炭素化を促進するデジタル技術 -

サプライチェーンの透明性を高め、脱炭素化を促進するために、以下のツールとテクノロジーがどのように活用できるか詳しく説明します。

  • ブロックチェーン:
    • 分散型台帳技術: ブロックチェーンは、取引データを複数のコンピューターに分散して記録する技術であり、データの改ざんが非常に困難です。
    • トレーサビリティの向上: 製品や原材料の履歴(産地、製造工程、流通経路など)をブロックチェーンに記録することで、サプライチェーン全体を透明化し、消費者が製品の由来を確認できるようにします。
    • CO2排出量等の環境情報の記録: 製品やサービスのライフサイクル全体におけるCO2排出量などの環境情報をブロックチェーンに記録し、信頼性の高い形で開示することができます。
    • スマートコントラクトの活用: ブロックチェーン上のスマートコントラクトを使用することで、特定の条件が満たされた場合に自動的に取引を実行することができ、サプライチェーンの効率化と自動化を実現できます。

  • AI(人工知能):
    • 需要予測と在庫最適化: AIを活用して需要を予測し、在庫を最適化することで、過剰生産や廃棄を削減し、CO2排出量を削減することができます。
    • CO2排出量の予測と削減: AIは、過去のデータに基づいてCO2排出量を予測し、最適な削減策を提案することができます。
    • 異常検知とリスク管理: AIは、サプライチェーン内の異常を検知し、リスクを事前に特定することで、環境問題や人権問題などの発生を防止することができます。

  • IoT(Internet of Things):
    • リアルタイムモニタリング: IoTデバイス(センサーなど)をサプライチェーン全体に設置することで、温度、湿度、位置情報、エネルギー消費量などのデータをリアルタイムで収集し、監視することができます。
    • エネルギー効率の最適化: IoTデータに基づいて、エネルギー使用量を最適化し、CO2排出量を削減することができます。
    • 物流の効率化: IoTを活用して、輸送中の製品の場所や状態をリアルタイムで把握し、配送ルートの最適化や遅延の防止など、物流の効率化を実現できます。

  • クラウドコンピューティング:
    • データの一元管理と共有: クラウド上にサプライチェーンに関わるデータを一元管理し、関係者間で共有することで、情報伝達の効率化と透明性の向上を実現します。
    • スケーラビリティと柔軟性: クラウドは、必要な時に必要なだけリソースを拡張できるため、サプライチェーンの規模や需要の変化に柔軟に対応できます。
    • コラボレーションの促進: クラウド上のプラットフォームを活用することで、サプライヤー、メーカー、物流業者、小売業者など、サプライチェーンに関わる様々な企業間のコラボレーションを促進し、脱炭素化に向けた共同の取り組みを推進できます。

これらのテクノロジーを組み合わせることで、サプライチェーンの透明性と効率性を向上させ、環境負荷を低減し、持続可能な社会の実現に貢献することができます。

まとめ - 透明性と脱炭素化で持続可能な未来へ -

多くの企業が、サプライチェーンの透明性向上と脱炭素化に向けて積極的な取り組みを行っています。これらの取り組みは、環境負荷の低減だけでなく、企業価値の向上にもつながります。透明性と脱炭素化への取り組みは、持続可能な社会の実現に向けた重要な一歩です。企業は、サプライチェーン全体で協力し、未来に向けて責任ある行動を取ることが求められています。

 

参考文献

  • サプライチェーンの可視化とリスク管理 (中央経済社)
  • ESG経営入門 (日経BP)
  • 図解入門業界研究 最新サプライチェーンマネジメントの動向とカラクリがよ~くわかる本 (秀和システム)
  • サステナビリティ経営とESG投資 (東洋経済新報社)
  • GRI 103: Management Approach 2016

情報源

  • 経済産業省:サプライチェーン強靭化に向けた取り組み
  • 環境省:脱炭素ポータル
  • 国連グローバル・コンパクト
  • CDP
  • GRI
  • GHGプロトコル
  • SBTイニシアチブ
  • ニールセン
  • コーン・フェリー・ヘイグループ

SBT(Science Based Targets)とは?

SBTとは、Science Based Targetsの略で、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。パリ協定で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命前比で2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標を達成するために、企業が設定する排出削減目標を指します。Science Based Targets initiative(SBTi)が認定する、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。SBTiは、CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体によって設立された国際的なイニシアチブです。

CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体

SBTが重要視されている理由は、企業の脱炭素化への取り組みを客観的に評価できる指標となるからです。SBTを取得することで、企業は以下のようなメリットを得られます。

  • ブランドイメージの向上
    環境意識の高まりとともに、消費者は企業の環境への取り組みを重視するようになっています。SBT導入は、企業の持続可能性に対するコミットメントを示すことで、消費者の共感を呼び、ブランドイメージ向上に繋がります。
  • 投資家からの評価向上
    ESG投資が主流となる中、SBTは企業の長期的な成長性を評価する上で重要な指標となっています。SBT導入は、投資家からの信頼獲得、資金調達、企業価値向上に貢献します。
  • 競争力強化
    SBT達成に向けた取り組みは、省エネルギー化、資源効率の向上、イノベーション促進など、企業の競争力強化に繋がる効果も期待できます。
  • リスク管理
    気候変動による事業リスクは、今後ますます高まることが予想されます。SBT導入は、気候変動リスクを早期に特定し、対策を講じることで、事業の安定化に貢献します。
  • 従業員のエンゲージメント向上
    環境問題への意識が高い従業員にとって、SBT導入は企業への愛着や誇りを高め、モチベーション向上に繋がります。

SBTは、企業規模や業種を問わず、あらゆる企業にとって有益な取り組みです。

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