はじめに
地球温暖化が深刻化する中、世界各国で脱炭素に向けた取り組みが加速しています。企業もカーボンニュートラルを宣言するケースが増えていますが、中には「本当にCO2排出量を削減しているの?」「グリーンウォッシュではないの?」といった疑問の声も上がっています。
そこで重要となるのが、第三者機関による客観的な評価です。PAS 2060は、まさにそのための国際規格として注目されています。
この記事では、PAS 2060について、詳しく解説していきます。
サマリー
- PAS 2060は、組織のカーボンニュートラル達成を証明する国際規格
- 信頼性向上、ブランドイメージ向上など、様々なメリットがある
- 取得には、排出量の算定、削減、オフセット、検証が必要
- ソニー、リコー、イオンなど、多くの企業が取得している
- カーボンオフセットやカーボンフットプリントとは異なる
PAS 2060は、組織、製品、イベントなどあらゆる規模でカーボンニュートラルを達成したことを証明するための国際規格です。イギリス規格協会(BSI)によって2010年に発行され、世界中で広く採用されています。
従来、カーボンニュートラルの定義や達成基準は曖昧な部分がありました。PAS 2060は、カーボンニュートラルを達成するための明確な要件を定めることで、その信頼性を担保しています。具体的には、以下の4つの原則に基づいています。
- 排出量の算定: 組織の活動に伴う温室効果ガス排出量を正確に算定すること。
- 排出量の削減: 事業活動における省エネルギー化や再生可能エネルギーの導入など、排出量の削減に積極的に取り組むこと。
- オフセット: 排出削減努力だけでは避けられない排出量を、植林などのカーボンオフセットプロジェクトによって相殺すること。
- 検証: 第三者機関による検証を受け、カーボンニュートラル達成を証明すること。
PAS 2060を取得することで、組織は自社のカーボンニュートラルへの取り組みを客観的に証明することができます。
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世界の基準を支えるBSIグループ:その役割と活動
BSIグループは、1901年に設立された、世界で初めて国家規格を制定した英国規格協会(British Standards Institution)を起源とする組織です。 その歴史は1世紀以上に渡り、今日では世界をリードするビジネス стандарты companyとして、国際的な стандарты の策定から、認証、試験、トレーニングまで、幅広いサービスを提供しています。
BSIグループの3つの主要な役割
BSIグループは、大きく分けて以下の3つの役割を担っています。
- 規格の開発と発行
- マネジメントシステムの認証
- 製品認証・試験・検査
これらの活動を通して、BSIグループは、企業の成長と発展、そして社会全体の持続可能な発展に貢献しています。
規格の開発と発行
BSIグループは、世界で最も多くの規格を開発・発行している機関の一つです。その数は、30,000を超えています。
- ISO規格: 国際標準化機構(ISO)が発行する国際規格。品質マネジメントシステムのISO 9001、環境マネジメントシステムのISO 14001など、様々な分野の規格がある。
- BS規格: 英国規格協会(BSI)が発行する英国規格。
- PAS規格: Publicly Available Specificationの略。ISO規格などの既存の規格では対応できない、新しい技術や社会ニーズに対応するために、BSIが迅速に発行する規格。
これらの規格は、製品、サービス、システムの品質、安全性、信頼性を向上させるための基準として、世界中で広く活用されています。
マネジメントシステムの認証
BSIグループは、ISO 9001(品質マネジメントシステム)、ISO 14001(環境マネジメントシステム)、ISO 45001(労働安全衛生マネジメントシステム)など、様々なマネジメントシステムの認証を行っています。
企業は、BSIの認証を取得することで、自社のマネジメントシステムが国際基準に適合していることを証明し、顧客や取引先からの信頼を得ることができます。
PAS 2060でカーボンニュートラルを達成するメリット
PAS 2060は、企業がカーボンニュートラルを達成したことを客観的に証明するための国際規格として注目されています。PAS 2060を取得することで、企業は様々なメリットを享受できますが、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
◯信頼性の向上
PAS 2060を取得したことで、第三者機関による厳正な評価を受けたことが証明され、顧客や取引先からの信頼を獲得する可能性が上がります。
具体的な効果
- 新規顧客の獲得: 「環境に配慮した企業」として認知され、新規顧客を獲得。売上増加に繋がった。
- 取引先との良好な関係構築: 大手企業との取引開始にあたり、PAS 2060が信頼の証となり、契約をスムーズに締結できた。
- 従業員のモチベーション向上: 会社の環境への取り組みが評価され、従業員のモチベーションが向上。離職率の低下に繋がった。
◯ブランドイメージの向上
PAS 2060を取得することで「環境に優しい企業」としてのブランドイメージを確立することができます。
具体的な効果
- メディア露出の増加: 環境への取り組みが評価され、新聞や雑誌などのメディアに掲載される機会が増加。企業の認知度向上に繋がった。
- プレミアム商品の販売: 「カーボンニュートラル◯◯」として、高価格帯のプレミアム商品を販売。ブランド価値向上に繋がった。
- SNSでの反響: PAS 2060取得をSNSで発信したところ、多くの反響があり、フォロワー数が増加。顧客とのエンゲージメント強化に繋がった。
◯競争力の強化
PAS 2060は、企業の持続可能性を評価する上で重要な指標となっています。PAS 2060を取得することで、競合他社との差別化に成功し、市場での競争力を強化することが可能になります。
具体的な効果
- 入札の優位性: 公共事業の入札において、PAS 2060が評価され、落札率が向上。
- 海外市場への進出: PAS 2060は国際規格であるため、海外市場への進出においても有利に働く可能性がある。
- 優秀な人材の確保: 環境問題に関心の高い優秀な人材を獲得することができる可能性がある。
◯リスク管理
気候変動は、企業経営に大きな影響を与える可能性があります。PAS 2060を取得することで、気候変動リスクへの対応を強化することができます。
具体的な効果
- サプライチェーンの安定化: 気候変動による生産量減少リスクを軽減するため、持続可能な調達体制を構築。
- 事業継続性の確保: 自然災害などのリスクに備え、事業継続計画を策定。
法規制への対応: 将来的な炭素税導入などの法規制リスクに対応。
PAS 2060取得のステップ
PAS 2060を取得するには、以下のステップを踏む必要があります。
- 排出量の算定: 組織の活動に伴う温室効果ガス排出量を算定します。排出量の算定には、GHGプロトコルなどの国際的な基準を用います。
- 排出量の削減: 事業活動における省エネルギー化や再生可能エネルギーの導入など、排出量の削減に取り組みます。
- オフセット: 排出削減努力だけでは避けられない排出量を、カーボンオフセットプロジェクトによって相殺します。
- カーボンマネジメントプランの作成: カーボンニュートラルを達成するための計画を策定します。この計画には、排出量の削減目標、オフセットの方法、検証方法などが含まれます。
第三者機関による検証: 策定したカーボンマネジメントプランに基づき、第三者機関による検証を受けます。検証の結果、要件を満たしていれば、PAS 2060の認証を取得することができます。
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PAS 2060取得の事例
PAS 2060は、様々な組織で取得されています。
- SUNTORYホールディングス株式会社:2023年国内食品工場で初めてPAS2060を取得。
- 株式会社リコー: 2014年に、国内で初めてPAS 2060を取得。
- イオン株式会社: 2018年に、小売業で初めてPAS 2060を取得。
これらの企業は、PAS 2060を取得することで、自社のカーボンニュートラルへの取り組みを対外的にアピールし、企業価値向上に繋げています。
まとめ
PAS 2060は、組織のカーボンニュートラル達成を証明するための国際規格です。取得することで、企業は信頼性向上、ブランドイメージ向上、競争力強化など、様々なメリットを享受できます。
地球温暖化対策が喫緊の課題となる中、PAS 2060は、企業のカーボンニュートラルへの取り組みを促進し、持続可能な社会の実現に貢献する重要な役割を担っています。