SBTコミットメントレターとは?:2年以内の取得を目指す企業のための制度を解説

   by kabbara        
SBTコミットメントレターとは?:2年以内の取得を目指す企業のための制度を解説
SBTコミットメントレターとは?:2年以内の取得を目指す企業のための制度を解説

はじめに

2年以内にSBT(Science Based Targets)認定取得を目指す企業にとって、最初に踏み出すべき重要な一歩が「SBTコミットメントレター」の提出です。これは、企業がSBTイニシアチブ(SBTi)に対し、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標を設定し、それを達成することを約束する公式な意思表明となります。SBT認定を取得するにあたってCO2算定など企業によっては準備期間が必要になります。今すぐ認定取得はできないが、認定取得をコミットするための公式の決意表明である「コミットメントレター」を解説します。

サマリー

  • SBTコミットメントレターは、SBT認定取得を目指す企業が最初に提出する意思表明書です。
  • 提出は、投資家からの評価向上やサプライチェーンでの競争力強化に繋がる重要なステップです。
  • 提出の流れは、情報収集、テンプレート記入、提出、SBTiによる受理・公表となります。
  • 提出後、約2年以内に科学的根拠に基づいた排出削減目標を設定・提出する必要があります。
  • コミットメント企業として公表されることはメリットがある一方、目標設定と達成の責任も伴います。

SBT(Science Based Targets)とは?

SBTとは、Science Based Targetsの略で、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。パリ協定で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命前比で2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標を達成するために、企業が設定する排出削減目標を指します。Science Based Targets initiative(SBTi)が認定する、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。SBTiは、CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体によって設立された国際的なイニシアチブです。

CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体

SBTが重要視されている理由は、企業の脱炭素化への取り組みを客観的に評価できる指標となるからです。SBTを取得することで、企業は以下のようなメリットを得られます。

  • ブランドイメージの向上
    環境意識の高まりとともに、消費者は企業の環境への取り組みを重視するようになっています。SBT導入は、企業の持続可能性に対するコミットメントを示すことで、消費者の共感を呼び、ブランドイメージ向上に繋がります。
  • 投資家からの評価向上
    ESG投資が主流となる中、SBTは企業の長期的な成長性を評価する上で重要な指標となっています。SBT導入は、投資家からの信頼獲得、資金調達、企業価値向上に貢献します。
  • 競争力強化
    SBT達成に向けた取り組みは、省エネルギー化、資源効率の向上、イノベーション促進など、企業の競争力強化に繋がる効果も期待できます。
  • リスク管理
    気候変動による事業リスクは、今後ますます高まることが予想されます。SBT導入は、気候変動リスクを早期に特定し、対策を講じることで、事業の安定化に貢献します。
  • 従業員のエンゲージメント向上
    環境問題への意識が高い従業員にとって、SBT導入は企業への愛着や誇りを高め、モチベーション向上に繋がります。

SBTは、企業規模や業種を問わず、あらゆる企業にとって有益な取り組みです。

SBT認定を取得するためには、様々な準備が必要になります。具体的には、基準年のCO2排出量を算定し削減目標を設定、削減施策を検討、算出したデータからイニシアチブへ提出するためのGHGインベントリーの作成、申請後のイニシアチブとのコミュニケーション・・・など様々な作業が必要になります。専門部署があれば話は別ですが、多くの企業は通常業務と平行して作業しなければいけないので準備には労力と時間がかかります。

そこでSBTでは、『2年以内の取得を目指す企業』に対してコミットメントレターという制度が用意されています。

このコミットメントレターの提出は、SBT認定を将来取得することにコミットし、企業が脱炭素化への真摯な姿勢を示すものです。提出後、SBTiによって受理・公開されることで、企業はSBTに取り組む意向を公式にステークホルダーに明確に伝えることができます。

コミットメントレター自体には、具体的な削減目標値は記載されませんが、その主な目的は、企業がSBTの枠組みに則り、将来的に科学的な根拠に基づいた排出削減目標を設定しSBTiの承認を得る意思があることを表明することにあります。

なぜコミットメントレターの提出が重要なのか?

コミットメントレターの提出は、単なる手続き以上の意味を持ちます。その重要性は、多岐にわたる企業価値の向上に繋がる点にあります。

 

早期の脱炭素化へのコミットメント表明:いち早くコミットメントレターを提出することで、企業は脱炭素化の潮流をリードする姿勢を示すことができます。これは、取引先や投資家、消費者といったステークホルダーからの信頼獲得に繋がります。

投資家からの評価向上: ESG投資が拡大する現代において、SBTへのコミットメントは、企業の長期的な成長性と持続可能性を示す重要な指標となります。コミットメント企業のリストに掲載されることは、ESG投資に関心のある投資家にとって投資判断の材料となり、資金調達における優位性を生む可能性があります。

サプライチェーンにおける競争力強化: 大手企業を中心に、サプライチェーン全体での脱炭素化を目指す動きが加速しています。SBTへのコミットメントは、サプライチェーンの一員として選ばれるための重要な要件となる可能性があり、競争力維持に不可欠です。

従業員のモチベーション向上: 地球規模の課題である気候変動への貢献を目指す企業の姿勢は、従業員のエンゲージメントを高め、働きがいや企業への誇りに繋がります。特に若い世代を中心に、企業の環境への取り組みを重視する傾向が強まっており、優秀な人材の獲得・維持にも貢献します。

将来的な規制リスクの低減: 世界各国で脱炭素化に向けた政策や規制が強化される中、SBTに沿った目標設定に取り組むことは、将来的な規制変更による事業への影響を最小限に抑えることに繋がります。

このように、SBTコミットメントレターの提出は、企業が持続的な成長を実現するための戦略的な第一歩と言えるでしょう。

コミットメントレター提出の流れと記載事項のポイント

SBTコミットメントレターの提出は、以下のステップで進められます。

コミットメントレター提出の流れと記載事項のポイント

SBTiの公式サイト(https://sciencebasedtargets.org/blog/whats-in-a-commitment

)にアクセスし、最新の「Call for Commitments Guidance」などの関連ドキュメントを確認します。

テンプレートのダウンロード: 公式サイトから最新のコミットメントレターのテンプレートをダウンロードします。

必要事項の記入: テンプレートに沿って、以下の情報を正確に記入します。

企業名: 正式名称を記載します。

本社所在地: 本社の住所を記載します。

連絡担当者: SBTに関する連絡窓口となる担当者の氏名、役職、メールアドレス、電話番号を記載します。

コミットメント表明: SBTを通じて科学的根拠に基づいた排出削減目標を設定し、それを達成することを約束する旨の定型文が含まれていますので、確認します。

目標設定の範囲: スコープ1、スコープ2に加え、可能な範囲でスコープ3を含む目標を設定する意思があるかどうかを選択します。

目標提出予定時期: 通常、コミットメントから2年以内に目標を提出する必要があります。具体的な提出予定時期を記載します。

署名: 企業の代表者(CEOなど)の署名、役職、日付を記載します。

提出: 作成したコミットメントレターを、公式サイトより提出します。

SBTiによる受理と公表: 提出後、SBTiによって受理されると、通常はSBTiの公式サイトに企業名とコミットメント日が掲載され、公表されます。

提出後のステップ:目標設定に向けたタイムラインと注意点

SBTコミットメントレターの提出後、企業はSBTiが定める期間内(通常は2年以内)に、科学的根拠に基づいた具体的な温室効果ガス排出削減目標を設定し、SBTiに提出する必要があります。

この目標設定の段階では、以下の点に注意が必要です。

排出量の算定と分析: スコープ1、2に加え、可能な範囲でスコープ3の排出量を正確に算定・分析することが目標設定の基礎となります。

目標設定方法の選択: SBTiが推奨する複数の目標設定方法(絶対水準目標、原単位目標、セクター別アプローチなど)の中から、自社の事業特性に合った方法を選択します。

野心的な目標設定: パリ協定の目標と整合する、野心的かつ実現可能な目標を設定する必要があります。

SBTiの基準の理解: SBTiの最新のクライテリア(基準)を十分に理解し、それに沿った目標を設定する必要があります。

目標設定後、SBTiによる目標の評価と承認のプロセスを経て、正式にSBT認定企業となります。

まとめ:SBTコミットメントレターを起点とした脱炭素経営の加速

本記事では、SBTコミットメントレターに焦点を当て、その意義、提出の流れ、そして提出後の重要なステップについて解説してきました。

SBTコミットメントレターは、企業が気候変動という喫緊の課題に対し、科学的な根拠に基づいた排出削減目標を設定し、その達成に向けて真摯に取り組むことを内外に示す重要な宣言です。単なる形式的な手続きではなく、企業の長期的な成長戦略、リスク管理、そして企業価値向上に不可欠な要素となります。

早期にコミットメントを表明することは、投資家からの信頼獲得、サプライチェーンにおける競争力維持、従業員のエンゲージメント向上など、多岐にわたるメリットをもたらします。一方で、コミットメントは目標設定と達成への責任を伴うものであり、企業は提出後の約2年間で、科学的な根拠に基づいた野心的な排出削減目標を策定し、SBTiの承認を得る必要があります。

脱炭素化は、社会全体の持続可能性を高めるための重要な取り組みであり、企業にとって新たな成長の機会でもあります。今すぐSBT認定を取得することは難しくとも、SBTコミットメントレターの提出を機に、国際基準に沿った脱炭素企業への第一歩をご検討ください。





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