サプライチェーン排出量算定:1次データ活用が脱炭素化を加速する理由

   by kabbara        
サプライチェーン排出量算定:1次データ活用が脱炭素化を加速する理由

はじめに

近年、気候変動問題への対応は、企業の持続可能性を左右する重要な経営課題となっています。 この記事では、サプライチェーン排出量算定における1次データ活用の重要性について、その背景、現状、具体的な算定方法、そして1次データ活用によるメリットを解説します。 企業の脱炭素化に向けた取り組みを加速させるために、1次データ活用が不可欠であることを理解していただくことを目指します。

 

この記事のサマリー

  1. サプライチェーン排出量には、Scope1、2、3の3つの区分がある。
  2. Scope3排出量の算定には、1次データと2次データの2種類のデータが用いられる。
  3. 2次データは業界平均値であるため、サプライヤーの排出削減努力が反映されない。
  4. 1次データを活用することで、サプライチェーン全体での排出量削減を促進できる。
  5. 1次データの活用は、企業の持続可能性を高める上で重要である。

サプライチェーン排出量とは、原材料の調達、製造、物流、販売、利用、廃棄といった、企業の事業活動の上流から下流に至るまでのあらゆる段階で発生する温室効果ガスの排出量の総和を指します。 GHGプロトコルでは、排出量の範囲をScope1(自社での直接排出)、Scope2(他社から供給されたエネルギーの使用に伴う間接排出)、Scope3(Scope1、2以外の間接排出)の3つに区分しています。 Scope3はさらに15のカテゴリーに分類され、サプライチェーン全体での排出量を把握するために算定されます。

Scope3 排出量の算定方式

Scope3排出量の算定は、一般的に「排出量=活動量×排出原単位」という計算式を用いて行われます。 活動量とは、購入した製品・サービスの数量や金額など、企業が把握できる事業活動の規模を示すデータです。 排出原単位とは、活動量あたりの温室効果ガス排出量を示します。  

排出原単位には、1次データと2次データの2種類があります。

  • 1次データ:サプライヤーから直接提供された排出量データなど、企業自らのバリューチェーン内の固有の活動から得られたデータ  
  • 2次データ:業界平均値などの、自社のバリューチェーン外のデータ(例:環境省の排出原単位データベース、IDEAなど)  

一般的に、1次データの方が自社の活動実態をより正確に反映できると考えられています。  

2次データを利用した算定の課題

現状では、Scope3排出量の算定に2次データが用いられることが一般的です。 しかし、2次データは業界平均値であるため、個々のサプライヤーの排出削減努力が反映されないという課題があります。 例えば、サプライヤーが製造工程を改善して排出量を削減した場合でも、2次データを用いた算定ではその努力がScope3排出量に反映されません。 そのため、2次データを利用し続ける場合、排出量を削減するためには調達量を減らすといった活動量の削減を行うしかありません。

1次データを活用した排出量算定のメリット

1次データを活用することで、サプライヤーの排出削減努力をScope3排出量に反映させることができます。 これにより、企業はサプライヤーに対して脱炭素化を促したり、排出量の少ないサプライヤーを選択したりするなど、サプライチェーン全体での排出量削減に向けた具体的なアクションを起こすことができます。 また、サプライヤーエンゲージメントを通じて、自社のScope3排出量削減に貢献することができます。

まとめ

サプライチェーン排出量算定において1次データを活用することは、自社の排出量だけでなく、サプライチェーン全体の排出量削減を促進するために非常に重要です。 1次データを活用することで、より正確な排出量の把握、サプライヤーとの連携強化、そして実効性の高い削減対策の実施につながります。 企業の持続可能性を高め、脱炭素社会の実現に貢献するために、1次データ活用を積極的に検討しましょう。

SBT(Science Based Targets)とは?

SBTとは、Science Based Targetsの略で、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。パリ協定で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命前比で2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標を達成するために、企業が設定する排出削減目標を指します。Science Based Targets initiative(SBTi)が認定する、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。SBTiは、CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体によって設立された国際的なイニシアチブです。

CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4団体

SBTが重要視されている理由は、企業の脱炭素化への取り組みを客観的に評価できる指標となるからです。SBTを取得することで、企業は以下のようなメリットを得られます。

  • ブランドイメージの向上
    環境意識の高まりとともに、消費者は企業の環境への取り組みを重視するようになっています。SBT導入は、企業の持続可能性に対するコミットメントを示すことで、消費者の共感を呼び、ブランドイメージ向上に繋がります。
  • 投資家からの評価向上
    ESG投資が主流となる中、SBTは企業の長期的な成長性を評価する上で重要な指標となっています。SBT導入は、投資家からの信頼獲得、資金調達、企業価値向上に貢献します。
  • 競争力強化
    SBT達成に向けた取り組みは、省エネルギー化、資源効率の向上、イノベーション促進など、企業の競争力強化に繋がる効果も期待できます。
  • リスク管理
    気候変動による事業リスクは、今後ますます高まることが予想されます。SBT導入は、気候変動リスクを早期に特定し、対策を講じることで、事業の安定化に貢献します。
  • 従業員のエンゲージメント向上
    環境問題への意識が高い従業員にとって、SBT導入は企業への愛着や誇りを高め、モチベーション向上に繋がります。

SBTは、企業規模や業種を問わず、あらゆる企業にとって有益な取り組みです。

CO2算定カテゴリの最新記事